平和公園自然観察会代表 滝川 正子
名古屋は人口約220万の大都市です.都心近くにある平和公園の土地は,多くが国・市有地であるため開発からまぬがれ,市街地の中に緑の島として残されて,自然に満ち満ちています.毎年春には,ウグイスが鳴き,ヤマザクラが咲き,水辺にはオタマジャクシが群れ,初夏にはツバメが葦原を飛翔します.秋にはドングリ,冬には霜柱が立ち,落葉敷く雑木林の散策路となります.溜め池や湿地などの水辺もあり,地形も森や谷戸(洞),そして耕作地もあり,まさに日本の原風景である里山の自然が残されています.
この自然観察会は毎月第2日曜日に行われています.きっかけは,'88オリンピックへの名古屋市の立候補があり,平和公園がメインスタジアム予定地になったことに対して,多くの人たちと誘致反対運動をしたことです.'88オリンピックは,結局ソウルで開催され,平和公園の自然は残りました.そこで,この里山を守り,次世代に伝えるため1981年春から,定例自然観察会を,野鳥の会のKさんに背中を押されるようにして始めました.まだ,全国的にも定例の自然観察会が珍しかった頃です.
自然観察で大切なことは,植物や動物の名前を覚えることより,自然のしくみと人の暮らしや文化と自然とのつながりを考察することです.春の七草摘み,5月のショウブとヨモギの匂い,秋の萩の花を見てのおはぎ談義やドングリゴマ作りなどを通じて季節を感じることによって,暮らしにうるおいや安らぎを自然観察はもたらしてくれます.
自然観察会には,年齢や性別にかかわらない,あらゆる人たちの参加があります.生き物に出会い,それらに触れる体験をし,「沈黙の春」を招かないようなセンスオブワンダー(The Sense of Wonder:自然の神秘さや不思議さに目を見はる感性)の共有が自然観察の醍醐味といえます.
最後に,自然観察の極みとして,鳥と虫好きを増やしたいと常々思っています.彼らの姿,形,色そして動きは神の技としか考えられない造形美です.虫嫌いの人の審美眼を疑ってしまうほどです.また,同時に虫や鳥たちを環境指標生物としても興味を持って欲しいからです.“Today is bird,tomorrow is man.”の原点を考える必要があります.19世紀始めのイギリスの炭坑では,籠に入れた鳥を連れて行きましたが,その理由はお分かりと思います.鳥なんかいなくても,あるいは,絶滅しても平気では困ります.鳥の身におきることは次には人類にもおきることだからです.鳥や虫の棲む自然に入ることで,環境の変化を知ることができます.人も自然の一部であり,決して自然と人は対立するものではありません.自然との調和の視点を見失わなければ,道に迷って,行き場を失っている現代人の回生はできると信じています.自然を残し,人と自然がともに生きる21世紀にしたいものです.