前日の雨が残るのではと思いましたが,すっかり晴れて,気持ちの良い春たけなわの中での観察会になりました.集合場所や新池周辺のサクラ(桜,バラ科)は満開でした.ごく一部のサクラは既に散り始め,水面に花びらが浮かんでいました.新池には,カワウ(1),カイツブリ(2),カルガモ(2)がいました.周辺には,サクラの花の蜜を吸っている数羽のヒヨドリ(鵯,スズメ目ヒヨドリ科)がいて,移動するたびに花びらが落ちていました.ムクドリ(4)(椋鳥,スズメ目ムクドリ科)も池の周辺を飛び回っていました.また,元清風荘の水たまりの水を,2羽のツバメが飲んでいました.集合場所のイチョウ(銀杏,イチョウ科)は緑の葉芽を出し始め,サクラの花のピンクとよい配色でした.イロハモミジ(伊呂波紅葉,カエデ科)の赤く見える小さな花も,葉の緑色と好対照でした.
参加者は,大人42名と子供10名でした.小さなお孫さんを連れた参加者や,初めて来た3名の女子大生の参加もありました.
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集合場所のサクラ |
サクラの蜜を吸うヒヨドリ |
イロハモミジの花 |
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まず,先月の記録を見ました.先月,花が咲き始めたコバノミツバツツジ(小葉の三葉躑躅,ツツジ科)は,今月も沢山咲いており,花の時期が長いことが話題になりました.サクラのつぼみの写真に関連して,今年のサクラの開花は,当初,早いという観測でしたが,結局,入学式時期に満開で,気温変化が異常であることも話題になりました.
次に,参加者が持ってきた甲虫の立派な標本を見ました.2回の灯火採集と観察会で採取したゾウムシ(象虫,ゾウムシ科,英語名weevil)などの甲虫を標本にしたものでした.ゾウムシの歩き方が,長い鼻のため特徴ある歩き方をするという指摘がありました.養老猛司氏が,超小型の走査型電子顕微鏡を手に入れて,ゾウムシを見て,それまで同種と思っていたものが別種であるという発見をしたという放送(NHK)があったという話が出ました.ゾウムシの分類はまだ手を付けられていないものも多くあり,最近はDNA鑑定での分類も行われ始めたそうです.標本の中のアオバアリガタハネカクシ(青翅蟻形隠翅虫,ハネカクシ科)の体液には,ペデリンという有毒成分があり,肌につくと腫れて猛烈に痛いので,つぶさないように注意がありました.実際に目に入ると失明のおそれもあるようです.
【外部リンク】養老孟司の虫コラム
【外部リンク】有機化学美術館
コガネムシのメジャーな種類が最近は変わってきて,ドウガネブイブイ(銅鉦ぶいぶい,コガネムシ科)からアオドウコガネ(青銅鉦黄金,コガネムシ科)になっているという報告もありました.
参加者が持ってきた,ツクバネガシ(衝羽根樫,ブナ科コナラ属)とオオツクバネガシ(大衝羽根樫,ブナ科コナラ属)の枝とドングリを観察しました.比較のため持ってこられた鋸歯のあるアラカシ(粗樫,ブナ科コナラ属)の葉と比較しました.ツクバネガシとオオツクバネガシの葉にはほとんど鋸歯はありませんでした.4枚の葉の形が羽根つき(衝き)の羽根に似ていることから,この名前が付いたとの説明を個人的に受けて,女子大生達は感心していました.近くにあったヤエムグラ(八重葎,アカネ科)を見せて,これをローランドゴリラが食べるという説明にも女子大生達は興味深そうでした.
【外部リンク】東ローランドゴリラについて
ツクバネガシとオオツクバネガシのそれぞれのドングリと葉を見ても,両者の差は少なく,片方だけを見て種類を同定することは難しいということになりました.別の参加者が持ってこられたピンク色の花の咲いたホトケノザ(仏の座,シソ科)とフトイ(太藺,カヤツリグサ科)も観察しました.
この間にも,子供達は木登りや落ちてくるサクラの花びらを掌や帽子で受けとめる遊びをしていました.ここまでで10時になってしまい,多くの花を見て,ノビルを採って食べるために急いで出発しました.
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オオツクバネガシとツクバネガシ |
サクラの花びらを受け止めて遊ぶ子供達 |
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まず,道路端のオオシマザクラ(大島桜,バラ科)を観察しました.白い花と緑の葉が入り交じっており,花はソメイヨシノ(染井吉野,バラ科)より大きく品があるということになりました.柏餅に使うのは,このオオシマザクラの葉だそうです.オオシマザクラの葉柄に2つの蜜腺が縦に並んでいるという説明がありましたが,必ずしも全ての葉に蜜腺がある訳ではなく,また,逆に3つの蜜腺を持った葉もあり,単純ではなさそうでした.ソメイヨシノは,エドヒガンザクラとこのオオシマザクラの自然交配ででき,不稔性で1本の木から人間が接木などで増やしてきたクローン植物だそうです.
【外部リンク】このはなさくや図鑑
その後,駐車場の里山の家で,昨日孵化したトウキョウサンショウウオ(東京山椒魚,サンショウウオ科)の幼体を観察しました.卵のうの中にいるものと,外に出ているものがいました.カウンターを借りて,子供達が容器の中の孵化した幼体を数えました.誰がやっても22匹でした.
平和公園に入って,まずクスノキ(楠,クスノキ科)を観察しました.名古屋市に落ち葉の苦情が年に2回あり,春の苦情が,このクスノキの落ち葉だという説明がありました.常緑ですが春の始めにユズリハ的に葉が替わります.クスノキからどうやって樟脳を作るかが話題になりました.根,葉,幹を蒸し焼きにして薫蒸すると樟脳ができるということで,次の機会にやってみようということになりました.鹿児島県の開聞岳で香料が作られ,フランスに輸出されているという関連の話もありました.このあたりのクスノキの葉は虫に食われており,幹にはコケがついており,状態は良くありませんでした.地面が常にしめっているのがよくないそうです.
次に,平和公園入口近くのナノハナ(菜の花,アブラナ科)を観察しました.もう花は盛りを過ぎ,茎の尖端だけに花があり,その下には多くの鞘状の実がついていました.園芸種で油をとるためのものではないので,やせていましたが鞘を剥いて中の種を皆で食べてみました.小さなグリーンキャビアだと言う人もいました.実の数を数えて,1本のナノハナに平均113も付いていることが分かりました.ナノハナ畑の脇に咲いていた同じアブラナ科のナズナ(薺,アブラナ科,別名:ペンペン草)と比較して,如何に効率的に油を採るように品種改良されてきたかということが話題になりました.平安時代から食用や灯明の燃料として使われたエゴマ(荏胡麻,シゾ科)の油の替わりに,菜種油が江戸時代にとって替わったのもうなずけます.斎藤道三が売っていた油は,エゴマの油で,一文銭の穴に油を通すという妙技のことも話題に出ました.離宮山崎八幡宮(京都)から油を仕入れて売っていたようです.最近は健康ブームで,エゴマの油もα-リノレン酸が多く含まれているということで,見直されています.
【外部リンク】夕刊フジブログ
ナノハナ畑の周辺には,数頭のモンシロチョウ(紋白蝶,シロチョウ科)が飛んでいました.ヒメオドリコソウ(姫踊り子草,シソ科)とホトケノザ(仏の座,シソ科)も近くに仲良く並んで花を咲かせていました.花の形はよく似ていますが,色はかなり違いました.
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ナノハナの実の数のカウント |
ヒメオドリコソウ、ホトケノザおよびオオイヌノフグリ |
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生物多様性締結国会議(COP10)のサブ会場として,海上の森,藤前干潟および平和公園が想定され,平和公園には里山として新設古民家の建設が計画されており,どこに建てるかが課題になっているそうです.建築基準法により,住宅であれば4m幅以上の道路に沿っていなければなりません.平和公園の中に道路をできるだけ造らないようにするため,入口付近に建てると周辺道路の音が聞こえて嫌だという意見もあるようです.倉庫として建てれば,手続きはもっと簡単で,規制も少ないという提案も出ました.
女の子がモンキチョウ(紋黄蝶,シロチョウ科モンキチョウ亜科)を網で捕らえ,網の中にプラスチックかごを入れて蓋をしました.しかし,上下逆に持ったため,蓋に隙間ができ,するりと取り逃がしてしまいました.チョウは,きっと「ありがとう」と言って逃げ出しただろうと言う参加者がいました.
小径脇のサルトリイバラ(猿捕茨,ユリ科)を観察しました.薄緑色の地味な花が咲いていました.ほとんどの参加者は,サルトリイバラの花は初めて見たようでした.まだ,ルリタテハの幼虫はいませんでしたが,代わりに黒っぽい毛虫が葉に一匹付いていました.シジュウカラ(四十雀,スズメ目シジュウカラ科)が,きれいなさえずりを頭上でしていました.
芝生広場前の草原でノビル(野蒜,ユリ科ネギ属)を採取しました.移植ゴテで深く掘り出した球根の泥を水で洗って,皮を剥いて,みそを付けて食べました.ユリ科ネギ属特有の芳香成分である硫化アリルには,消化液の分泌を刺激し,食欲をすすめる働きの他,発汗,解熱,消炎作用があるそうですが,犬猫には毒で,貧血を起こすそうです.ハンバーグなどもタマネギが入っているので,犬猫にはやってはいけないようです.口直しにリンゴのスライスも用意されていましたが,ノビルを食べていない人もつまんでいました.周辺には,ヘビイチゴ(蛇苺,バラ科ヘビチゴ属)の黄色い花,オランダミミナグサ(和蘭耳菜草,ナデシコ科),スイバ(酢葉,タデ科)およびタネツケバナ(種漬花,アブラナ科)などもありました.オランダミミナグサの葉は,耳たぶと同じような柔らかさから,この名前がついたそうです.タネツケバナは,白い小さな花を咲かせており,その名の由来である種モミを水につけて田植えの準備をする春の季節だという証拠でしょう.
ナミアゲハ(並揚羽蝶,アゲハチョウ科),ツマグロヒョウモン(褄黒豹紋,タテハチョウ科),キタテハ(黄立羽,タテハチョウ科),ベニシジミ(紅小灰蝶,シジミチョウ科)などのチョウも周辺を飛んでいました.テントウムシ(天道虫,テントウムシ科)の幼虫やトノサマバッタの年明け(越冬)バッタもいました.枯れ草色のトノサマバッタは,観察ビンに入れて回して観察しました.イナゴが,遠く飛べるようになるのは,周辺の仲間とふれあい,餌が少ないことを感知して,次世代のイナゴの羽根などが大きくなり長く飛べるようになり,移動して農作物を荒らすという説明がありました.
周辺の水たまりには,アカガエルとヒキガエルのオタマジャクシが沢山いました.孤立した小さな水たまりが真っ黒に見える程のオタマジャクシがいる場所がありました.手ですくってみるように,年長の参加者が子供達に言いましたが,子供達は木の枝でかき混ぜるだけで,触ろうとはしませんでした.年長の参加者が素手ですくって,オタマジャクシを子供達に見せましたが,子供達は気持ち悪がって逃げ回っていました.アカガエルは,以前は平和公園にはいず,誰かが持ち込んだという話がありました.アカガエルはヒキガエルと違って毒はないので,鳥の餌になりますが,鳥はどうやってヒキガエルとアカガエルのオタマジャクシを見分けるかという疑問が出されました.
ミツバアケビ(三葉通草,アケビ科)の花を探し出して観察しました.逆光で透かしてみると暗赤紫色の独特の色で,アケビ色ともいうべききれいな色でした.雄花と雌花を観察し,どのように受粉して実ができるかという説明がありました.
マサキ(柾,ニシキギ科)に蛾(ミノウスバ)の幼虫が群がっているのを観察しました.雄花をつけた雄株のヒサカキ(姫榊,ツバキ科ヒサカキ属)も観察しました.
最後に,先月と同じ場所まで歩き,感想会をしました.周辺には,サクラやモモの花が咲き,ウメには緑の実がついていました.風もなくぽかぽかして,多彩な木々に囲まれ,周辺を子供達が遊び回って,ウグイス(鴬,ウグイス科)のさえずりも聞こえ,桃源郷のようだと言う参加者もいました.ウグイスは,平和公園では繁殖しないという説明がありました.冷涼な場所の方が,ウグイスの営巣には向いているようです.小さな2人の女の子は,タンポポを沢山摘んでいました.他の子供達は,大きな声を出しながら鬼ごっこをしていました.このような場所であれば,遊具は無くても子供達は楽しく遊びをすることができるようです.平和公園のような場所の大事さがよく分かります.子供達をテレビゲーム中心の屋内から解放する必要があると思います.
3人の女子大学生から,小学校低学年の時に観察したきりのものを今回たくさん観察して,小学校時代を随分前のように感じ,年をとったという感想が出て,他の年長の参加者から苦笑が漏れました.ノビルを食べた感想に関連して,これまでワケギの球根を切って捨てていたことへの反省も出ました.平和公園だけでなく,各地の木を守る為の世話をしている参加者の話も出ました.
感想会の後で,シイタケの菌打ちとナノハナの引き抜き作業があるというアナウンスがありました.子供達が遊び回る中で,春と幸せを感じた楽しい観察会になりました.
観察項目:平和公園の甲虫標本,ホトケノザ,オオツクバネガシ,ツクバネガシ,アラカシの葉,オオシマザクラ,トウキョウサンショウウオ,クスノキ,ナノハナ,モンシロチョウ,ナズナ,ヒメオドリコソウ,ウグイス,エノコログサ,トノサマバッタ,アゲハチョウ,モンキチョウ,ベニシジミ,ツマグロヒョウモン,サルトリイバラ,ヒキガエルとアカガエルのオタマジャクシ,スイバ,レンギョウ,ツクシ,ヘビイチゴ,オオイヌノフグリ,ハナダイコン,ハナリラ,ノビル,タネツケバナ,スイバ,オランダミミナグサ,ミツバアケビ,カラタチのつぼみ,ノミゾウムシ,ヤゴ,ウグイスのさえずり(概ね観察順)
伊藤義人
監修 滝川正子
「なごや平和公園の自然」,「なごや平和公園の自然 ?」および今年出た「なごや平和公園の自然 2006」は,平和公園の里山の家で入手できます.
「なごや平和公園の自然 2006」の修正:p.36 「ツマグロヒョウモン(オス)」e「キタテハ」
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