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2007年 > 5月度の観察記録
5月度の観察記録
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 雨を心配しましたがずっと曇りで,歩きやすい観察会になりました.すっかり新緑が広がり,新池の水面もスイレン(睡蓮,スイレン科)で,かなりの部分が覆われていました.2羽のカワウが木にとまっていましたが,カモ類は,カイツブリの鳴き声が聞こえるだけでした.集合場所の木陰に多くの小さな虫が飛んでいたため,3羽のツバメがしきりに低空を何度も飛来していました.ヒヨドリ,ムクドリ,スズメおよびハトなどの標準種の鳥も,周辺を飛んでいました.新池周辺のセンダン(栴檀,センダン科)は,薄紫色の小さな花を沢山咲かせていました.クワ(桑,クワ科)は,まだ緑色でしたが多くの実を付けていました.集合場所のニセアカシア(マメ科)も白い花を付けていましたが,既に,盛りは過ぎており,多くの花びらが土の上にも落ちていました.参加者は,子供6名を含む35名でした.

センダンの花

 最初に,愛知県の自然観察会指導員連絡会の旗をフェンスの金網に張っておひろめしました.緑地に「自然観察会」という文字が白抜きされた旗ですが,まだ,下の観察会の名前の部分は白抜きのままで,字の上手な人に書いてもらうことになりました.文字の前にある花の模様が話題になり,何の花かという質問が出ました.愛知県の県木であるハナノキ(花の木,カエデ科)を図案化したものでした.ハナノキは,東海丘陵地帯(長野県,愛知県,岐阜県,滋賀県)のみに自生する木で,中津川,恵那,足助などで見られるそうです.国の天然記念物に指定され,環境省の絶滅危惧種に指定されています.ソメイヨシノのように葉が出る前にきれいな花が咲きます.名古屋大学の東山キャンパスにも1本だけあります.貴重種を図案化するよりも,よくあるなじみのある植物を図案化した方がよいという意見も出ました.
 次に,先月の報告を見ました.オオシマザクラ(大島桜,バラ科)に関連して,奈良地方では,これをアオメノシロバナザクラと呼んでいるという話しがありました.報告の内容は,多くの情報が入っているので,後でゆっくりと読んでほしいと言うお願いがありました.

自然観察会の旗

 参加者が持ってきたイタチハギ(鼬萩,マメ科,別名:クロバナエンジュ)の鉢植えを観察しました.紫黒色の花穂に多くの花が既についており,この形がイタチの尾を連想させ,イタチハギの名前がついたようです.平和公園には,キラニン広場と猫ヶ洞池にあります.マメ科なので,窒素固定能力があり,痩せ地の砂防用や護岸用に用いられるそうです.繁殖力も強いそうです.イタチハギの小さな花を取って,近くに咲いていた同じマメ科のクローバーの花と比較しました.一般に,マメ科の花は,よく似た形をしており,花びらは5枚で,上に非常に大きくよく目立つ1枚(旗弁)があり,二枚貝の貝殻のように組み合わさった2枚(船弁または竜骨弁)を残りの2枚(翼弁)がはさんでいます.しかし,イタチハギの花の場合は,船弁と翼弁はなく,黒紫色の旗弁しかありませんでした.雄しべが花の外に突き出てオレンジ色の葯(やく)がよく目立ちました

【外部リンク】フジとマメ科の蝶形花

 メンデルが使ったエンドウマメもマメ科で,風媒花で自家自粉するため,扱いやすかったという話が出ました.
 次に,麦の穂のような植物を観察しました.イネ科の園芸種のようで,「ネコジャラシ?」と言ったところでした.葉の手触りは,短い毛が生えており,非常に柔らかでした.「ビロードネコジャラシ」とでも名付けようかという人もいました.あとで,ドライフラワーとして人気がある「ラグラス」(野うさぎの尾),「ラビットテール」や「バニーテール」などと呼ばれているもののようであると教えてもらいました.一般に,自然観察会の人達は,園芸種にはあまり興味がないのが普通のようです.
 同じく参加者が持って来た2種のケシを見ました.1つは,栽培が禁止されているアツミゲシ(渥美芥子,ケシ科)でした.千種区のある所に自生していたのを,名古屋市の保健所に通報したら,1本1本台帳に付けて持って行ったそうです.野生の違法ケシを抜くボランティアもいるそうです.根が大根のように1本のものは違法ケシで,2本に分かれているのは栽培してよいケシだそうです.

 ここまでで10時を過ぎてしまい,今回はビーティンネットも用意されていたので,多くの虫を見ることにして出発しました.

イタチハギの花 ラグラス

 まず,集合場所から道路を渡って,いつものマテバシイ(全手葉椎,ブナ科)の観察場所まで行きました.1年目のドングリが沢山ついていました.マテバシイのドングリは2年間で熟成するので,来年に食べられるものでした.近くに,緑色の実を付けたクワ(桑,クワ科)もありました.いつもは行かない奥まで回り込むと,名古屋市が植えたお花畑がありました.ヤグルマギク(矢車菊,キク科),ハナビシソウ(花菱草,ケシ科),ポピー(雛罌粟(ひなげし),ケシ科)の3種でした.青,黄,橙などの色で,まさにお花畑でした.アヤメ(菖蒲,アヤメ科)の花も囲いの境界で咲いていました.いかにも人の手によって植えたものという感じがして,高山での自然のお花畑とは趣がまったく違いました.
 お花畑の端に,大きなホウノキ(朴の木,モクレン科)があり,少し枯れかけた花が2〜3ついていました.最初,トチノキかと思った参加者もいましたが,葉をよく見て,ホウノキであることが分かりました.白い花を咲かせたミカン(蜜柑,ミカン科)の木もありました.すぐ近くの石垣でスイカズラ(吸葛,スイカズラ科)の花を見つけました.冬にも完全には落葉しないので忍冬(にんどう)という別名があり,また,花が最初白く,その後に黄色くなるので,金銀花(きんぎんか)という別名もあるそうです.今回も1つの花が白く,他が黄色でした.徳川家康が好んだ長寿の忍冬酒(スイカズラの薬酒)は,犬山にある(浜松の名産?)という話も出ました.初夏を連想させる花のようです.

お花畑 ホウノキの花と葉 ミカンの花 スイカズラの花

 平和公園に入ってすぐの小径端にオヤブジラミ(雄藪虱,セリ科)があり,紫がかった実と白い小さな花が混じっていました.畑の横に,虫にひどく食われたマサキ(柾木,ニシキギ科)がありました.食われた葉の残りの部分の裏には,ミノウスバ(蓑薄翅蛾,マダラガ科)の脱皮殻がたくさんついていました.生垣としてマサキはよく使われますが,ミノウスバに葉を全部食べられてしまうこともあるそうです.
 畑の角の幼木のコナラの葉にヒメクロオトシブミ(姫黒落とし文,オトシブミ科)がついていました.成虫のヒメクロオトシブミが作り始めて,2時間くらいできれいに巻いた形になり,1つの卵を産むそうです.

【外部リンク】オトシブミの国

 黒い長い脚のザトウムシ(座頭虫)を見つけた参加者がいました.周辺の草むらにも多くいて,写真を撮るときに,7〜8匹も見つかりました.前足で探るように歩きますが,すぐに草原に隠れてしまうので写真には取りづらい被写体でした.クモだと思った参加者も多くいました,節足動物門鋏角亜門クモ綱ザトウムシ目で,頭,胸および腹の区別がなくクモよりダニに近いそうです.英語では,あしながおじさん(Daddy Long Legs)の愛称があることは,一昨年の観察会で話題になりました.

ミノウスバの脱皮殻のついたマサキ ヒメグロオトシブミ

 紫色の花を咲かせたイモカタバミ(芋傍食,カタバミ科)が群生していました.ムラサキカタバミかと思いましたが,花の真ん中が白でなく黄色いので,イモカタバミだということになりました.花びらの紫色も,ムラサキカタバミより濃いそうです.
 周辺にカナムグラ(鉄葎,クワ科)がたくさんあったので,これを食草としているキタテハ(黄立羽,タテハチョウ科)の幼虫を探しました.葉裏にキタテハの幼虫がいるので,手のひらを広げたのようなカナムグラの葉の形が,手で拳骨をつくったようになっているのを探すように説明があり,3ヶ所で見つけることができました.一緒に,体長4cm大のコスズメガの成虫も見つけました.

イモカタバミ カナムグラとキタテハの幼虫 コスズメガ

 このときに,今回の最大の発見物である,寄生バチの19個のさなぎを背中につけたウスタビガ(薄足袋蛾,ヤママユガ科)の幼虫を見つけました.ステゴサウルスの背中の板のように,5mm大のさなぎを背中につけて,動いている異様な光景にショックを受けて,吐きそうになったという女性もいました.自然の厳しさをまざまざと見せつけられました.後で,インタネットで調べると,さなぎの取れた跡をつけたウスタビガの幼虫の写真が載っており,必ずしも幼虫は死んでしまうわけではないことを知り,ほっとしました.

【外部リンク】昆虫エクスプローラ−ウスタビガ−

寄生バチの蛹がついたウスタビガの幼虫 寄生バチの蛹がついたウスタビガの幼虫

 芝生広場前の水田まで行きました.木の根元近くに3cm大の球状のクモの団居(まどい)がありました.花穂のついたショウブ(菖蒲,サトイモ科)が,トンボ池のなかにありました.増えすぎて困っているそうです.水溜りの中には,たくさんのオタマジャクシがいました.アカガエルは,ヒキガエルより先に産卵していましたが,まだ,オタマジャクシに手脚は出ておらず,ヒキガエルの方は,すっかり手脚がはえ,尻尾をわずかに残すだけのものも多くいました.この時,我々に驚いて19羽のムクドリがキュルキュルと鳴きながら上空を飛んで行きました.

クモの団居(まどい) 手足のはえたヒキガエルのオタマジャクシ

 芝生広場前の小道をキラニン広場に向かって歩きました.途中で,ニセアカシア(マメ科)の幼木の白い花を観察しました.白い花びらは薄く,テンプラにして食べるとおいしいと言う参加者がいました.また,白い小さな釣鐘状の花をたくさんつけたネジキ(捩木,ツツジ科)も観察しました.なんとも純白の花の形は魅力的でした.近くに薄黄緑色の実が垂れ下がったヤマウルシ(山漆,ウルシ科)の木もありました.
 キラニン広場の端にあった2本の小さなイタチハギには,まだ花はついていませんでした.広場の逆側のアカマツ(赤松,マツ科)には,紫色の雌花がついていました.アカマツの葉は柔らかく,クロマツの葉は硬く塩分に強いので,海岸にはクロマツを植えるという話が出ました.
 このキラニン広場から,斜面を藪こぎをして,その後,地肌の見えている崖を下り,芝生広場の奥に至りました.一部の人は,わき道のゆるい斜面を下りました(カメラを2台持っている私も)が,多くの子供と大人の参加者は喜んで急斜面の崖を降りました.
 芝生広場には,ニワゼキショウ(庭石菖,アヤメ科),ニガナ(苦菜,キク科),ヒメコバンソウ(姫小判草,イネ科)などが咲いていました.ニワゼキショウの花は,赤紫色のものと白っぽい青紫色などの色の違うものがありましたが,参加者の中には,1つの花の色が変わっていくと思っていた人がいました.

 芝生広場の作業所の近くで,コゲラの鳴き声を聞き,また,水田の方向のキショウブ(黄菖蒲,アヤメ科)を見ながら,感想会をしました.昔懐かしい煎餅と手作りクッキーも振舞われました.感想としては,寄生バチの19個のさなぎを背中につけたウスタビガの幼虫が最も衝撃だったようです.集合場所近くのアカバナユウゲショウ(赤花夕化粧,アカバナ科)やマツバウンラン(松葉海蘭,ゴマノハグサ科)についても話が出ました.どちらも外来種で最近目立つようになったものです.小さな子どもの参加者も元気に感想を言えました.5月の生き物がわき出てくるような季節を感じた,気持ちのよい観察会になりました.


観察項目:イタチハギ,千種区のケシ,ヤマクワ,マテバシイ,お花畑(ヤグルマギク,ポピー(ヒナゲシ),ハナビシソウ),アヤメ,ホウノキの花,ミカンの花,スイカズラ,マサキ,ミノウスバの抜け殻,ヒメクロオトシブミ,ザトウムシ,イモカタバミ,カナムグラ,キタテハの幼虫,オヤブジラミ,寄生バチのさなぎがついたウスタビガの幼虫,コスズメガ,ショウブ,アカガエルのオタマジャクシ,手足のはえたヒキガエルのオタマジャクシ,ニセアカシア,ネジキ,アカマツ,ニワゼキショウ,ニガナ,ヒメコバンソウ,キショウブ,アカバナユウゲショウ(概ね観察順)

伊藤義人
監修 滝川正子

「なごや平和公園の自然」(2004),「なごや平和公園の自然 ?」(2005)および今年出た「なごや平和公園の自然 2006」は,平和公園の駐車場の里山の家で入手できます.

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2008-7-19 861

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