朝から大雨でした.雨でも風(台風)でも観察会は実施するという方針がありますので,長靴を履き,カッパを着て,2台のカメラに透明なプラスチック袋を輪ゴムで巻いて,完全武装で出かけました.この観察会で最初から雨というのは数年ぶりでした.写真は撮りづらかったですが,生き物たちには恵みの雨ですし,雨の観察会でしか見られないものも期待されました.
新池の水面やスイレン(睡蓮,スイレン科)は大粒の雨で煙ったようになっていました.1羽のアオサギ(青鷺,サギ科)だけが,鉄柵の上でじっとしていました.
多分,大雨でも来る物好きは10名程度だろうと,早く来た参加者達は予測していましたが,最終的には,子供2名を含む15名となりました.思わず「お互いに物好きだなあ!」というため息がもれました.
大粒の雨に濡れてしまうので,先月の報告は里山の家で行うことにしました.集合場所では,まず,参加者が自宅から持ってきた3cm大の10数個のボケ(木瓜,バラ科)の実を見ました.まだ,青く未成熟でしたが,自然に落ちてしまったそうです.直接食べられないので,カリン(花梨,マメ科)のようにお酒につけるそうです.次に,シャーレに入ったアオスジヤドリバエ(青条寄生蠅,ヤドリバエ科)の3つのさなぎとアオスジアゲハ(青条揚羽,アゲハチョウ科)の死んださなぎを観察しました.アオスジアゲハの幼虫を蝶にしようとしたら,さなぎのときに3匹のウジが中から出てきて,その後,そのウジがさなぎになったそうです.クスノキ(楠木または樟,クスノキ科)に,アオスジアゲハとアオスジヤドリバエが卵を産んで,先に幼虫になったアオスジアゲハが,葉といっしょに,アオスジヤドリバエの卵を食べると,お腹の中で卵がかえり幼虫となり,アオスジアゲハがさなぎになったときに,アオスジヤドリバエの幼虫が食い破って出てくるということでした.さなぎになったときのホルモンが影響しているそうです.相当な率で寄生されているので,アオスジアゲハの幼虫を飼って蝶にすることは,かなり難しいそうです.葉を洗って与えるなどの工夫が必要なようです.
【外部リンク】珍獣様の博物誌
参加者が持ってきた少し枯れたブタナ(豚菜,キク科)を見ました.ヨーロッパ原産の帰化植物で,フランス語の「豚のサラダ(Salade de pore)」を訳したものという話題は,「なごや平和公園の自然(2004),p.34」に記述されています.
名古屋市を巻き込んで,新池の開堀調査の計画が10月にあるそうです.スイレンとヘドロをある程度除去して,カイツブリ(鳰,カイツブリ科)などが営巣できるようになればということです.新池は,遊水調整池ですが,名古屋市は景観の観点から,COP10とも関連して,この事業を計画しているという報告がありました.
【外部リンク】東山の森だより
大雨でしたが,たくさん歩き,いつもは行かない平和堂の裏手まで行くことにして出発しました.
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ボケの実 |
アオスジヤドリバエのさなぎとアオスジアゲハのさなぎ |
ブタナ |
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平和公園に入る前に,集合場所のすぐ前の道路を渡り,民家のロウバイ(蝋梅,ロウバイ科)を見に行きました.立派な5cm長の卵状の実が多く稔っているように見えました.観察会では,虫こぶ(虫えい)であるとの説明がありましたが,後で調べると,これは偽果(花托が発達したもの)で,内部に本当の果実(紫褐色で長さ1センチほどの長楕円形の痩(ソウ)果が5〜20個)があるそうです.
【外部リンク】花@散歩
【外部リンク】かのんの樹木図鑑
平和公園へ戻る途中で,タイサンボク(泰山木または大山木,モクレン科)を見ました.大きな花は既に盛りを過ぎていました.北アメリカ原産であることは,すでにこれまでの観察会で話題になり,「なごや平和公園の自然?(2005),p.43」に書かれています.どうして泰山木や大山木という名前が付いたかという質問が出ましたが,大きな木や花を中国山東省にある名山である泰山(たいさん)に例えたもの,または大きな樹形が大山のように見えるところからという説が有力なようです.
雨を避けて,里山の家の玄関口で,保険のための署名をし,先月の報告が配られ説明がありました.ウスタビガは,寄生バチの幼虫が中から出てきてさなぎになっても,すぐには死なないことや,イタチハギが平和公園の種々の所にあることが報告されました.里山の家の中では,カメラのレンズに結露ができてしまい,最初はうまく写真が撮れませんでした.
里山の家に展示してあった平和公園の土の標本も皆で見ました.関連して,奥三河の絹雲母(きらら)は,ファウンデーションの原料となるという話が出ました.そういえば,ケニアで白い珪藻土を掘っている所を見学して,これも化粧品にも使うという説明を受けたことを思い出しました.
平和公園入口の畑では,ナノハナ(菜の花,アブラナ科)の替わりにヒマワリ(向日葵,キク科)が植えられていました.その向かえの畑の横の石段を登って,ハンノキ湿地を目指しました.途中で,2人の参加者がはぐれてしまいました.ハンノキ湿地へ行く途中のユーカリ畑の前で,子供がカタツムリ(蝸牛)を見つけました.雨を喜んでいるようでした.ここで,イロハモミジ(伊呂波紅葉,カエデ科)の赤っぽくなった実も観察しました.
ハンノキ湿地は,一昨日までは干上がっていましたが,昨日と今日の雨で,かなり水がたまっていました.干上がったときに,沢山の穴があったそうです.観察会では,モグラ塚だろうということになりました.ハンノキ湿地の真ん中の穴は水没していました.普通,モグラ塚は表面に穴があいていませんが,ここのは3cm大のきれいな穴があいていました.穴の深さは深いところで50cmくらいでした.後で,ザリガニの穴であることが分かりました.水のないところでは,枯葉の下に多くのモリチャバネゴキブリ(チャバネゴキブリ科)がいました.アメリカザリガニの死骸もありました.
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モグラ塚と思われたザリガニの穴 |
モリチャバネゴキブリ |
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ハンノキ湿地の周辺のハンノキ(榛の木,カバノキ科)の葉にミドリシジミ(緑小灰蝶,シジミチョウ科)の幼虫のゆりかごが出来ていました.また,ヒメクロオトシブミ(姫黒落文,オトシブミ科)の約5mm長の成虫のすぐ近くにその揺籃もありました.ハンノキ湿地の入口付近のセイタカアワダチソウ(背高泡立草,キク科)についたセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ(背高泡立草髭長油虫,アブラムシ科)も観察しました.
【外部リンク】Partial博物記
ハンノキ湿地から,土手の小径に戻った所で,コナラ(木楢,ブナ科)の葉にコナライクビチョッキリ(ゾウムシ科)の揺籃も見つけました.ヒメクロオトシブミの揺籃より巻き方が下手でした.
【外部リンク】海野和男のデジタル昆虫記
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ミドリシジミの幼虫のゆりかご |
ヒメクロオトシブミの成虫とゆりかご |
コナライクビチョッキリのゆりかご |
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また,トゲトゲのついた緑色の多くの実を付けた数本のコウゾ(楮,クワ科)を見つけて観察しました.コウゾの枝の皮をはいだときに,女の子から紙のような感じだという言葉が出ました.カマトトなのか,感性が豊かなのかが議論になりました.近くには,紫色の小さな花の咲いたムラサキシキブ(紫式部,クマツヅラ科)がありました.すぐ横にはウコギ(五加,ウコギ科)もありました.
ここから早足で歩いて,平和公園無縁塚まで行きました.塚の周辺には,花の萎んだアカバナユウゲショウ(赤花夕化粧,アカバナ科)のような花がありました.モモイロヒルザキツキミソウ(桃色昼咲月見草,アカバナ科)だという人もいました.花の大きさが,アカバナユウゲショウは1cm程度,モモイロヒルザキツキミソウは4cm程度と大きく違いますが,花がしぼんでいて確認できませんでした.後でモモイロヒルザキツキミソウであることが確認されました.
塚の後ろに,イスノキ(柞の木,マンサク科)がありました.茶色の10cm大程度の種々の形の実がたくさんついているように見えましたが,これはアブラムシが原因の虫えい(虫こぶ)でした.古いものは,黒くなっていて,7〜8mm大の丸い穴があいていました.アブラムシが出てきた跡だそうです.オカリナのように,この穴に息を吹き込むと不思議な音が出ました.この世とあの世を結ぶ殯笛(もがりぶえ)の音だという参加者もいました.この音から,この木をヒョンノキとも言うそうです.ただし,ひびが入っているものが多く,この場合はまともな音は出ませんでした.この虫こぶには,イスノキエダナガタマフシという名前が付いていることを後で知りました.この虫こぶを半分に割ってみましたが,中は空洞で,よく見ると小さなアブラムシが動いていました.葉についた小さな別の形の虫こぶもありました.平和公園無縁塚のイスノキの周辺は殯(もがり)の森ということもできるという参加者もいました.
【外部リンク】映画『殯の森』(カンヌ映画祭グランプリのニュース)
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平和公園無縁塚 |
モモイロヒルザキツキミソウ |
イスノキの虫えい(イスノキエダナガタマフシ) |
アブラムシの入った虫えいの中 |
この頃に,雨がやみ,薄日もさしてきました.遠くで4〜5羽のツバメ(燕,ツバメ科)が早速虫の捕獲のため飛翔していました.周辺ではシジュウカラ(四十雀,シジュウカラ科)の鳴き声も盛んに聞こえてくるようになりました.
塚の周りに背の低いツキミソウ(月見草,アカバナ科)の黄色い花が咲いていました.ニセアカシア(マメ科)の枝に,きれいに並んだ3連のヒメクロオトシブミの揺籃もありました.
平和公園無縁塚から,虹の塔へ行く途中でコマツナギ(駒繋ぎ,マメ科)がピンクの花を咲かせていました.枝は細いですが,馬をつなげても良いほど丈夫だということで,この名前がついたそうです.周辺には,枯れたコバンソウ(小判草,イネ科)と花の盛りの過ぎたビヨウヤナギ(美容柳,オトギリソウ科)がありました.
虹の塔は,戦後50周年で復興事業終了を記念して造られた高さ21m(21世紀にちなんで)のモニュメントだそうです.
【外部リンク】Yahoo!知恵袋「虹はなぜ虫偏の漢字・・・」
雨が上がったので,虹の塔の周辺の草むらにムクドリとドバトが沢山寄ってきました.
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ニセアカシアについた3連のオトシブミの揺籃 |
コマツナギ |
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虹の塔の横の休憩所で,感想会をしました.休憩所の柱に,家の中にあるような柱時計が掛けてあり,不思議な感じでした.休憩所の横のソメイヨシノ(染井吉野,バラ科)に小さなサクランボがついており,食べられるという人と食べられないという人がいました.試してみた人によると食べられないわけではないですが,旨くはないそうです.ソメイヨシノがクローンで増えており種はできないという話題から,レオポンやラバなどの一代雑種の話まで飛び出しました.
モモスズメ(桃雀蛾,スズメガ科)の幼虫を,モモとサクラの葉に付けて,自宅から持ってきた参加者がいました.他の参加者が持って帰って,成虫にするそうです.非常に細長い青虫でしたが,尻尾のような尾角が目立ちました.雨の観察会も楽しかったという感想が多く出ました.梅雨入り直前の雨の中での貴重な自然観察会になりました.
観察項目:クワの実,ボケの実,アオスジヤドリバエのさなぎ,ブタナ,ロウバイの偽果,タイサンボク,ヒマワリ,イロハモミジの実,カタツムリ,ザリガニの穴,モリチャバネゴキブリ,ミドリシジミのゆりかご,セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ,コナライクビチョッキリの揺籃,コウゾ,ヒメクロオトシブミの成虫と揺籃,ネズミモチの花,ムラサキシキブの花,ウコギ,ニセアカシアについたヒメクロオトシブミの3連の揺籃,イスノキとその虫えい,モモイロヒルザキツキミソウ,コバンソウ,コマツナギ,ソメイヨシノのサクランボ,モモスズメの幼虫(概ね観察順)
伊藤義人
監修 滝川正子
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