梅雨に入り,九州では豪雨の被害が出ていましたが,名古屋は朝から曇りでした.観察会の途中で薄日も差してきて,歩いていると背中に汗をかきましたが,昨年に比べればさほど暑くなく,観察会にとっては最適の天候でした.新池近くの街路では,アガパンサス(ユリ科,別名:紫君子蘭)が青い花をきれいに立体的に咲かせていました.センダン(栴檀,センダン科)は,緑の実を沢山つけていました.新池では,スイレン(睡蓮,スイレン科)が白い花を一斉に咲かせていました.また,池の水中の藻も水面に小さな白い花をたくさん咲かせていました.水面にチョウトンボ(蝶蜻蛉,トンボ科)などのトンボがさかんに飛んでいました.新池に水鳥はおらず,周辺にスズメ,ムクドリ,ドバト,カラスなどがいるだけでした.
参加者は,子供6名を含む29名でした.後から数名の方が遅れて参加しました.
まず,参加者が持ってきた小さな桐箱に入ったモリチャバネゴキブリの標本を見ました.先月,ハンノキ湿地で捕ったものでした.ゴキブリなのに非常に清潔に見えるという感想が出ました.桐箱は,蓋に隙間が無くて,虫が入らなくて標本箱として最適だという話に対して,既に標本の虫が入っているのにといって笑いがおこりました.ゴキブリの脚を関節で切ると,そこからまた再生するという話がありました.神経物質が関係しているそうです.
次に,胴体の長さが5cm程もあるシロスジカミキリ(白筋髪切,カミキリ科)を観察しました.翅の模様は黄色で,白筋ではないのではという感想が出ました.死ぬと白くなるという説明でしたが,今回のものはまだ黄色でした.シラカシ(白樫,ブナ科)などの樹皮の下に卵を産むそうです.幼虫は,タンパク質源として,煎って食べる人がいるそうです.カミキリの顎は頑丈で,アルミ板に傷を付けることができる程丈夫だそうです.虫眼鏡でシロスジカミキリの顔を観察して,その造形美に感嘆した声があがりました.
【外部リンク】昆虫エクスプローラ
2年目のマメナシ(豆梨,バラ科)の苗木を持ってきた参加者がいました.春に,梨のような白い花が咲き,秋に1cm大の小さな実がなるそうです.世界で愛知,岐阜,三重と長野にしか自生しておらず,絶滅危惧種に指定されている氷河期の生き残りの木だそうです.食用梨の原種と言われていますが,これ自体は食べられないようです.中国では,梨の花を美しい女性のたとえとして使うという話も出ました.関連して,清少納言の枕草子の第34段「木の花は」の話も出ました.
【外部リンク】気ままニュース「木の花は」
マメナシは,平和公園には無い木ですが,今後植えるかどうかの議論が出るかもしれません.この話のときに,上空を1羽のカルガモが独特のハバタキ飛行をして猫ヶ洞池の方へ真っ直ぐ飛んでいきました.
参加者の持ってきたナワシロイチゴ(苗代苺,バラ科)の赤い実を食べました.もう時期はずれですが,甘いという感想が出ました.
先月の記録を見ながら,新池の横から採ってきたアカバナユウゲショウ(赤花夕化粧,アカバナ科)を観察しました.自宅近くに沢山あると言う人もいました.昼間に咲いているのに夕化粧というのはどうしてかという質問が出ました.夕方咲くオシロイバナ(白粉花,オシロイバナ科)の別名がユウゲショウで,その花と似ているのでアカバナユウゲショウ(単にユウゲショウとも言う)という名前が付いたようです.大きな根のついた背丈が50cm以上のヨモギ(蓬,キク科)も観察しました.最近は外来種のヨモギが多いという説明がありました.このヨモギが在来種かどうかは,判別できませんでした.
平和公園へは,駐車場から入って南側の畑に行きました.途中に,ユンボで耕したヒマワリ畑がありました.「ヒマワリを植えました」という名古屋市の立て札がありましたが,実際は,これから種蒔きをするそうです.8月末に間に合うような品種を選んで名古屋市が行うそうです.
畑の横の小径を行く途中で.ミズギボシ(水擬宝珠,ユリ科)の小さな群生を見つけました.湿地性の植物ですが,薄紫色の花がきれいでした.茎をフキ(蕗,キク科)のように茹でて食べるという参加者がいました.橋の親柱や寺院の階段の欄干などにかぶせている擬宝珠(ぎぼし)と,この植物のギボシとどちらが名前を借りたかいう話になりました.後で調べると,ミズギボシなどの蕾が擬宝珠に似ていることから,植物の名前に使っているようです.擬宝珠はお寺の宝珠からきたと言う説と,ネギ坊主から来ていて,魔よけとして使われたという説の2つがあるようです.
【外部リンク】チューさんの野菜ワールド「擬宝珠はネギ坊主?」
かくれ帯だらけの網についたナガコガネグモ(長黄金蜘蛛,コガネグモ科)を見つけました.網の中心から上下にジグザグ模様の白いかくれ帯のついた網はよく見ますが,このように全体に隠れ帯があるのに気づいたのは初めてでした.
畑の端の溝に薄いピンク色のアゼムシロ(畦筵,キキョウ科,別名:ミゾカクシ)の花が咲いていました.扇を開いたように半円状に5弁の花びらがついていました.畑から南へ突っ切って,ハンゲショウ(半夏生,ドクダミ科)を見に行きました.葉が1枚真白になっていて,穂状の花が咲いていました.
少し戻って畑のニンジン(人参,セリ科)の花を観察しました.小さな花が傘のようにかたまった花には,ハナムグリ(花潜り,コガネムシ科)やアリ(蟻,アリ科)などの虫が沢山ついていました.良い香りがして,昆虫が寄ってくるのは当然という感想に,虫にとってよい香りかどうかは分からないと言う反論がありました.ニンジンの花を初めて見た人が多かったので,1株だけ引き抜いて,細いニンジンの根を確認しました.皆でニンジンの葉を食べてみましたが,苦くはなく確かにニンジンの味がするという感想が出ました.
周辺には,カタバミ(片喰,カタバミ科)やムラサキカタバミ(紫片喰,カタバミ科)も群生していました.ムクゲ(木槿,アオイ科),ナンテン(南天,メギ科)およびアカメガシワ(赤芽柏,トウダイグサ科)も花を咲かせていました.5mm大のトリノフンダマシ(鳥の糞騙し,コガネグモ科)を捕まえた女の子が観察ビンに入れて他の人に見せていました.虫眼鏡で見た人から,猿の顔に見えるという感想が出ました.
カラスウリ(烏瓜,ウリ科)をいつも観察する竹林に行き,皮が落ちるかどうかで竹と笹を判別するという説明がありました.カラスウリは,まだ葉だけで花はつけていませんでした.
近くの畑の端で,ホトトギス(時鳥または不如帰,ユリ科)を手入れしている人と話をしました.まだ,花は咲いていませんでしたが,花の模様がホトトギス(時鳥または不如帰,ホトトギス科)の胸羽の模様と似ているので,この名前がついたそうです.ルリタテハ(瑠璃立羽,タテハチョウ科)の幼虫がサルトリイバラ(猿捕茨,サルトリイバラ科)と同様に食草にするそうです.
周辺で,捕虫網で捕まえた体長5mm程の小さなクサカゲロウ(臭蜉蝣,クサガゲロウ科)の幼虫がアブラムシを食べているのを観察しました.背の縞の模様を虫眼鏡で観察しました.緑色のカニグモ(蟹蜘蛛,カニグモ科)も同じところで見つけ,腕にはわせて観察しました.小径の端にはエビスグサ(夷草,マメ科)とヒョウタン(瓢箪,ウリ科)もありました.
芝生広場前の水田に行き,先月の観察会の後で植えたイネ(稲,イネ科)を観察しました.まだ,イネの背丈は低く弱々しく見えました.水田の中で雑草のヒエ(稗,イネ科)を見つけ,他の参加者に支えてもらいながら,畦道からこれを除草した参加者がいました.陽当たりが悪いので水温も低く,肥料もやらないですが,イネはなんとか成長しているようです.
トンボ池でマツモムシ(松藻虫,マツモムシ科)を観察しました.参加者が水面にいるマツモムシを網で捕まえようとしましたが,網に穴があいていて何度か失敗しました.捕獲に成功したときに,子供が素手でとってビンにいれたので,大人の参加者はびっくりしました.今回は噛まれずに済みましたが,噛まれると相当の痛さで,始めに注意すべきだったと反省が出ました.背泳ぎの形で水面の虫を捕獲していることや,一番後ろの脚がオール状に大きくなっていることを観察しました.脚に毛が生えていて水面を移動できることや,夜は翅を乾かして飛ぶという説明もありました.
トンボ池にいっぱいあったカエルの卵やオタマジャクシがどうなったかという質問が出ました.カエルになって外に出て行ったという回答がありました.イオンのペットショップで売られている動物の値段の話になり,雄の鈴虫が一匹380円で,ペアーで480円であり,なんとアズマヒキガエル(東蟇蛙,ヒキガエル科)のadultが2000円で売られていたという報告がありました.このトンボ池のカエルは,全部でいくらくらいの価値があったかということが話題になりました.トンボ池の水面上には,ナツアカネ(夏茜,トンボ科)とシオカラトンボ(塩辛蜻蛉,トンボ科)が飛んでいました.笹舟でなく,ヨシ(葦,イネ科)の葉で作った2艘のヨシブネを浮べた人がいました.トンボ池の端にはフサモ(房藻,アリノトウグサ科)が群生していました.
芝生広場の前の湿地で,ガマ(蒲,ガマ科)の穂を採り,穂の断面と茎の縦断面を観察しました.茎の縦断には空気をためる場所があるとの説明がありました.
アオバハゴロモ(青羽羽衣,アオバハゴロモ科)の幼虫を観察ビンに入れて観察しました.ふたをあけると翅もないのにジャンプしました.セミの仲間ですが,虫眼鏡で顔を観察してカブトエビ(兜蟹,カブトエビ科)っぽいと言った女の子がいました.
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ナツアカネ |
シオカラトンボ |
ガマの穂 |
ガマの穂の断面 |
芝生広場の愛護会の人達の作業場近くの側溝で,長さが50cm以上あるコウガイヒル(笄蛭,コウガイヒル科)を見つけました.平べったい形状がサナダムシに似ていると言う参加者がいました.ある参加者が木の枝にぶら下げようとして,胴体を切断してしまいました.肉食で,ダニやナメクジなどを捕食しているという説明がありました.頭が笄(こうがい,髪を掻き上げる道具)の形(イチョウの葉形状)をしているので,この名前がついているそうです.
チョウトンボ(蝶蜻蛉,トンボ科)を芝生広場で探しましたが,残念ながら飛んでいませんでした.芝生広場の端では,紫色の花を咲かせたネジバナ(捻花,ラン科,別名:モジズリ)がたくさんありました.紫色の花は,右ネジ,左ネジおよび捻っていないものもありました.小さな花を咲かせたニガナ(苦菜,キク科)とニワゼキショウ(庭石菖,アヤメ科)もありました.黄色い花のニガナは,5弁のものと6弁のものがありました.図鑑には4〜6弁という表記がしてありました.可愛くてきれいだという感想が出ました.
カバキコマチグモ(樺黄小町蜘蛛,フクログモ科)の巣(笹の葉を折り曲げた三角おにぎり形状)を持ってきた参加者がいました.このクモの観察記録が載っている「平和公園の自然?,p.45」を読み上げて説明がありました.今回は,結び目を解かず,持ち帰って孵化させるため参加者が持ち帰りました.
芝生広場で翅の美しいタマムシ(玉虫,タマムシ科)を網で捕獲した参加者がいました.手にのせて写真を撮っていたところ,アベマキ(阿部槇,ブナ科)のてっぺんまで急いで飛んでいってしまいました.よく観察できたのは数名の参加者だけでした.
芝生広場横の雑木林の枯れたコナラ(小楢,ブナ科)の木に,コゲラ(小啄木鳥,キツツキ科)が開けた穴が2つありました.木の中の虫を探したようでした.すぐ近くに,セイヨウバクチノキ(西洋博打の木,バラ科)がありました.葉の裏に文字が書けるか,さっそく試した参加者がいました.タラヨウ(多羅葉,モチノキ科,別名:葉書の木,ノコギリバ)と似ていますが,葉にタラヨウのような鋸歯はありませんでした.
元クレー射撃場の斜面に行き,崖登りをしようとしたら,「雨の後はがけにちかづかないこと」という立て札が新たにたっていました.十分,斜面は乾いていたので,かまわず崖登りと崖下りを始めました.小径へ降りる崖下りの方が難しかったですが,小さな男の子は,下った崖を,また登って降りてきました.さすがに3度目には,その子供の父親は,心配して横の緩い斜面を通って向かえに行きましたが,男の子はズボンのお尻を真っ白にして1人で降りてきました.昔の男の子は,自然の中でこのような冒険は日常的にしていましたが,擦り傷くらいで何とかなっていたと思います.芝生広場に戻るときに,側溝近くで,尻尾が青光りしたニホントカゲ(日本蜥蜴,トカゲ科(スキンク科))を女の子が見つけました.
感想会を,芝生広場の愛護会の作業場で行いました.ニンジンの花を初めて見た人が多く,感想会で人気でした.生き物を沢山観察できた楽しい自然観察会になりました.
観察項目:モリチャバネゴキブリの標本,マメナシの苗,シロスジカミキリ,ナワシロイチゴ,アカバナユウゲショウ,ヨモギ,ミズギボシ,ナガコガネグモ,アゼムシロ,ハンゲショウ,ニンジンの花,カタバミ,ムラサキカタバミ,トリノフンダマシ,クサカゲロウの幼虫,カニグモ,ホトトギス,ウスノキの実,エビスグサ,ウラナミシジミ,ウラギンシジミ,オオシオカラトンボ,シオカラトンボ,マツモムシ,ナツアカネ,アズマヒキガエル,ガマの穂,アオバハゴロモの幼虫,コウガイヒル,ネジバナ,ニガナ,セイヨウバクチノキ,カバキコマチグモの巣,コゲラがあけた木の穴,ナナフシ,タマムシ,ニホントカゲ,ルリタテハの幼虫(概ね観察順)
文・写真:伊藤義人
監修:滝川正子
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