ときどき陽がさす曇りの天候でしたが,春うららという言葉がぴったりで,快適な観察会になりました.ソメイヨシノ(染井吉野,バラ科)の花はほとんど散って,残ったわずかな花の淡いピンクと新葉の新緑が混ざっていました.今年は,しだれ桜と八重桜の開花も,ソメイヨシノとほぼ同時だったため,既にこれらも花の盛りを過ぎていました.新池には,池の端にカイツブリ(鳰,カイツブリ科)1羽,ヒドリガモ(緋鳥鴨,カモ科)2羽とオナガガモ(尾長鴨,カモ科)2羽がいました.オナガガモは,頭を水面につっこんで,水面上でお尻を振るという逆立ちの形で餌を採っていました.水面には,点々とスイレン(睡蓮,スイレン科)の丸い葉が浮いていました.新池周辺のトウカエデ(唐楓,カエデ科)はきれいな薄黄緑の新葉を出していました.カラスノエンドウ(烏野豌豆,マメ科)やマツバウンラン(松葉海欄,ゴマノハグサ科)も周辺に繁茂していました.センダン(栴檀,センダン科)だけが,新葉を出しておらず,まだ冬景色でした.参加者は,子供5名を含む30名でした.さらに,途中で合流した人も数名いました.久しぶりに来られた懐かしい人もいました.
集合場所で,まず2004年から2007年の4冊の記録集がベンチに並べられて紹介されました.2005年からは,表紙の12枚の写真は,各月の代表写真を順番に並べてありますが,写っている動植物の名前を全てすぐにいえる人は少ないと思います.
その後,先月の観察報告が記録を見ながら観察順にありました.カンアオイ(寒葵,ウマノスズクサ科)の葉の数は,単純な計算間違いをしており,769ではなく,実際は658であったという修正がありました.また,一株だけあったスズカカンアオイ(鈴鹿寒葵,ウマノスズクサ科)は,ヒメカンアオイ(姫寒葵,ウマノスズクサ科)を持ち帰った人が,代わりに植えたのではないかという推測が出ました.善意のつもりでしょうが,自然を楽しむ人は,生態系を人為的に変えないようにしたいものです.
次に,水槽に入れたギンヤンマ(銀蜻蜒,トンボ科)の5cm長のヤゴ(水?)を皆で観察しました.後で,オタマジャクシ(御玉杓子)を食べるところを観察しようとして,新池の開掘調査の時に採取したものを持ってきたそうです.オニヤンマ(鬼蜻蜒,トンボ科)のヤゴと違って食欲旺盛だそうです.水槽の中のヤゴのウンコが二連になっているのも観察しました.ヤゴは,水槽の中にいれた細長い葉の下に隠れていましたが,シオカラトンボ(塩辛蜻蛉,トンボ科)のヤゴは泥の中に隠れるという事が紹介され,その違いが話題になりました.餌の追いかけ方や取り方と関係するかもしれないという人もいました.
【外部リンク】川におけるヤゴの棲み分け(ヤゴの世界)
集合場所を出発するときに,公園のソメイヨシノの太い幹から直接出ている花を観察しました.何らかの理由で表皮に傷が付き,そこから機能分化した細胞が分裂して,幹から花が出たという事でした.関連して人間の万能細胞も話題になりました.
平和公園の里山の家の近くの生垣の見事に赤くなったカナメモチ(要黐,バラ科カナメモチ属,別名:アカメモチ(赤芽黐))の葉を観察しました.赤い新葉には葉緑素が後でできるため,次第に緑色になるそうです.平和公園に入ってすぐの畑の横の小さなオタマジャクシ池とその溝で,子供達は黒色のヒキガエル(蟾蜍,ヒキガエル科)の2cm長くらいのオタマジャクシを十数匹取って,ヤゴを入れた水槽に入れました.池の水温は,14度のため人間の手で直接オタマジャクシを持つと,オタマジャクシは火傷をするという人がいました.水槽をじっと観察しましたが,ヤゴのすぐ下に数匹のオタマジャクシが行っても,ヤゴは全く動きませんでした.感想会の時に,虫に詳しい参加者から,水槽を運ぶときにさんざん揺すられびっくりしたヤゴは,とても餌を食べる余裕はなかったのではという発言がありました.その日の朝にメダカを食べているので,お腹がすいていないか,あるいはオタマジャクシが餌として旨く見えないのかもという意見がでました.オタマジャクシを水槽に入れた男の子の手のひらにヤゴを載せようとしたら,怖がってすっと手を引きました.ヤゴが餌を食べるときに,直腸からジェット噴流を出して,びっくりしている生物を採る所を観察したことがあるという報告もありました.
ここで,クマバチ(熊蜂,ミツバチ科)を網でとって,フィルムケースに入れた参加者がいました.目が大きいので雄だそうです.通常,空中を飛んで縄張り行動をしている雄は針を持たないので,刺さないそうです.花に群がっている雌は刺す可能性があるそうです.フィルムケースが半透明で写真が撮りにくかったため,刺さないということを聞いて,ある参加者が蓋をあけたところ,さっと飛んで逃げてしまいました.
近くの野原に5弁の8mm大の黄色い花がたくさん咲いていました.ヘビイチゴ(蛇苺,バラ科ヘビイチゴ属)の花と思いましたが,小葉が5枚ということで,オヘビイチゴ(雄蛇苺,バラ科キジムシロ属)であるということになりました.通常のヘビイチゴの小葉は,3枚だそうです.オヘビイチゴには,ヘビイチゴと属が違うので赤い苺はできないそうです.オヘビイチゴの属名である「キジムシロ」は,「雉が座る筵」という意味だそうです.ヒメオドリコソウ(姫踊子草,シゾ科)の薄紫の小さな花を取って蜜を吸って甘いことを確認した参加者もいました.
さらに少し歩いていくと,アベマキ(阿部槙または?,ブナ科)の10cm長くらいの若枝が枯葉の上にあちこち落ちていました.切り口は明らかに,風などで落ちたものではなく,かといって今の時期はチョッキリ(丁切,チョッキリゾウムシ科)の仕業とも考えられないので,落ちている理由は宿題となりました.近くに,上品な紅紫色の花を一杯つけたコバノミツバツツジ(小葉三葉躑躅,ツツジ科)が,斜面の下の方に群生していました.谷側の原らっぱのニワウルシ(庭漆,ニガキ科,別名:シンジュ(神樹))は,1.5m高程度の林立した細い幹の上に新葉を出していました.地面には大きな葉を円形に広げたエゾノギシギシ(蝦夷羊蹄,タデ科)がありました.
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オヘビイチゴの花 |
ヒメオドリコソウ |
落ちたアベマキの若枝 |
コバノミツバツツジ |
子供達が網で,斜面の畑で蝶を捕りました.雄と雌のモンシロチョウ(紋白蝶,シロチョウ科)と黒い筋の入ったスジグロシロチョウ(条黒白蝶,シロチョウ科)を捕獲しました.スジグロシロチョウは,初めて見た人が多かったようです.道ばたで,オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢,ゴマノハグサ科)とタチイヌノフグリ(立犬の陰嚢,ゴマノハグサ科)を見つけて,両者を比較しました.タチイヌノフグリの茎はまっすぐに立って,オオイヌノフグリより小さく,花も 3〜4mmと小さく葉に隠れる程でした.タチイヌノフグリの花のオシベの先は黄色で,オオイヌノフグリのオシベの先は紫色なので区別できるそうです.花の咲く位置も違っていました.花は,一日花で,一株には一度に1つしか花が咲いていないことを確かめました.オオイヌノフグリの花のメシベは真ん中に1本で,それを挟むように2本のオシベがありました.「フグリ」という名前は,実の形から来ていますが,使いにくいという感想がでました.
【外部リンク】オオイヌノフグリ(植物園へようこそ!)
ツマキチョウ(褄黄蝶,シロチョウ科)を網で捕まえた参加者がいたので,観察ビンに入れて皆で観察しました.翅の両端が黄色いので雄ということでした.雌は,翅の端に黄色の部分はないそうです.ツマグロヒョウモン(褄黒豹紋,タテハチョウ科)の両端の黒色と同じようです.
水田まで行き,まず,その横の斜面のウスノキ(臼木,ツツジ科)の花を観察しました.スズラン(鈴蘭,ユリ科)の花のような釣り鐘形の花でしたが,もっと地味な感じでした.水田の畦道にジュズダマ(数珠玉,イネ科)の実が半分埋まって,表面がすれてピカピカ光っていました.新芽を出している実もありました.トンボ池と水田の水の中には,黒いかたまりとなったヒキガエル(蟾蜍,ヒキガエル科)のオタマジャクシがいました.ニホンアカガエル(日本赤蛙,アカガエル科)のオタマジャクシも数は少なかったですがいました.ヒキガエルの骨を水のなかから見つけて畦道に並べた女性の参加者がいました.動物の骨の標本を作るのが趣味の人でした.水の中を見ると骨の周辺に沢山のオタマジャクシがいて,骨を囓っているようでした.さらに,近くを見ると,まだ皮と肉のついたヒキガエルの死骸を多くのオタマジャクシが囓っていました.「自然は全てを無駄にせず,命がつながっている」という感想を述べた参加者がいました.
水田横の間伐した登り斜面を薮こぎしました.間伐して陽が入るようになったため,サルトリイバラ(猿捕茨,ユリ科)やウスノキの幼木がいくつか出ていました.アベマキの落下した新枝を,ここでも観察しました.コゲラ(小啄木鳥,キツツキ科)が近くでギィーギィーと鳴くのを聞きながら斜面を登りきって,道に出ました.トウカイコモウセンゴケ(東海小毛氈苔,モウセンゴケ科)があった場所ですが,腐葉土をオーバーレイしてあったため見つけることはできませんでした.替わりにタチツボスミレ(立坪菫,スミレ科)が,小さな紫の花を咲かせていました.
切り株の近くでビロードツリアブ(天鵞絨吊虻,ツリアブ科)を発見して,逃げないように皆でじっとして観察しました.この後で,近くの若木のコナラ(木楢,ブナ科)の枝先についた3つの虫えいを見つけました.2〜3cm大の丸い子リンゴのような虫えいでした.後で,虫えいはナラメリンゴフシ(楢芽林檎五倍子)という名前がついており,ナラメリンゴタマバチ(楢芽林檎玉蜂,タマバチ科)が冬芽に産卵したのが原因だと教えてもらいました.触るとしっとりして軟らかい感触でした.3つしか無かったので,割って中を見ることはあきらめました.ミツバアケビ(三葉通草,アケビ科)の黒紫の雄花と雌花を見つけて観察しました.いつ見ても,見事な色と造形でした.
【外部リンク】ナラメリンゴフシ(自然生態園へ行こうのブログ)
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タチツボスミレ |
コナラの虫えい(ナラメリンゴフシ) |
ミツバアケビの花 |
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大乗寺の横で2本のアセビ(馬酔木,ツツジ科)が,スズランの花のような釣り鐘形の花を沢山つけているのを見つけました.花の形を見て,ドウダンツツジ(満天星躑躅,ツツジ科)と間違えた人もいました.アセビの葉を煮て,その煮汁をまくと虫除けになるそうです.花を取って蜜を吸って甘いということを確認した参加者がいました.名前から,毒を持っているのではと心配する人もいました.ネパールの国花は同じツツジ科のシャクナゲ(石楠花,ツツジ科)であるという話題から,名古屋と愛知県の木は,それぞれクスノキ(楠,クスノキ科)とハナノキ(花の木,カエデ科)であるということに対して,合併した一宮市は,市民投票で平成18年にハナミズキ(花水木,ミズキ科)に決定したことが出ました.1912年に東京市が米国のワシントンD.C.にソメイヨシノを送った返礼に送られたのがハナミズキで,これが最初に日本に入ったという由来があります.北米原産の木を市の木にする感覚に疑問がだされました.合併前の一宮市の市の木は,クロガネモチ(黒鉄黐,モチノキ科)だったようです.
男の子が道の上で,リスに食べられたような松ぼっくりを見つけました.平和公園にはリスはいないので,理由はわかりませんでした.3月末の火事の現場まで行き,焼跡を見ました.星ヶ丘で客待ちをしていたタクシーの運転手が火柱を見て消防署に通報したそうです.放火で,犯人は愉快犯であるかもしれません.松の切り株の近くでクロヤマアリ(黒山蟻,アリ科)の巣を子供が見つけました.数匹のクロヤマアリが出たり入ったりしていました.一人の男の子が巣の入口を壊そうとして父親に注意されていました.少しぐらい壊してもすぐに働きアリが補修するという話に対して,虫に興味を持っていたある女性の参加者は,子供の頃,巣の奥まで壊して女王アリを観察したそうです.関連してミツバチ(蜜蜂,ミツバチ科)の役割分担に話題が広がり,生まれた働き蜂は,門番,外交,そして偵察というように難しい仕事に変わっていくという説明がありました.
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アセビの花と新芽 |
リスに食べられたような松ぼっくり |
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いつも観察するカラタチ(枸橘,ミカン科)の所まで行きました.カラタチは,5cm大の白い花をいっぱい咲かせていました.まだ,蕾のものもありましたが,木全体が真っ白に見えました.近づいて見ると,鋭い棘を隠すように花が咲いていました.花には強い香りはありませんでした.すぐ横のイロハモミジ(伊呂波椛,カエデ科)の緑の新葉の下側に咲いた小さな小さな赤い花も観察しました.周辺には,名古屋市が種を蒔いた園芸種のヒナギク(雛菊,キク科)が白い花を咲かせていました.また,カラタチの根元には,これも園芸種の一株のスノーフレーク(ヒガンバナ科,別名:スズランスイセン(鈴蘭水仙)またはオオマチユキソウ(大待雪草))が,スズランの花を大きくしたような釣り鐘形の花を咲かせていました.花の先端に緑のポイントがあるのが特徴のようです.スノードロップ(ヒガンバナ科,別名:マチユキソウ(待雪草))とよく間違われるようです.
前にクズ(葛,マメ科)の葉痕を観察した苔原を感想会の場所にしましたが,後続の人がなかなか来ず,早くお弁当を食べたい2人の男の子が斜面を走って呼びにいきました.まさに転がりながらの感じでした.黄粉と胡麻で作った昔懐かしいクッキーと自家製のキンカン(金柑,ミカン科)の実がふるまわれました.周辺ではムクドリ(椋鳥,ムクドリ科)が飛び交い,コゲラがギィーギィーと鳴いていました.
カラタチの花を見ることができてよかったという感想が多くでました.島倉千代子の「からたち日記」の歌でなく,小学校で習った北原白秋作詞の「からたちの花」を歌ってもらって大変感激したという参加もいました.
『からたちの花』 (作詞:北原白秋 作曲:山田耕筰)
「からたちの花が咲いたよ.白い白い花が咲いたよ.からたちのとげはいたいよ.青い青い針のとげだよ.
からたちは畑の垣根よ.いつもいつもとほる道だよ.からたちも秋はみのるよ.まろいまろい金のたまだよ.
からたちのそばで泣いたよ.みんなみんなやさしかつたよ.からたちの花が咲いたよ.白い白い花が咲いたよ.」
オタマジャクシに初めて触った人やコナラの虫えいにびっくりしたという人もいました.感想会の間中,子供達は弁当を食べたり,喜々としてコケの上を転げ回ったりしていました.いろいろな色の花が咲いたうららかな春と子供がはね回るのを楽しんだ観察会になりました.
観察項目:ギンヤンマのヤゴ,ソメイヨシノ,カナメモチ,オヘビイチゴ,ヒキガエルのオタマジャクシ,アベマキの落下した若枝,ヒメオドリコソウ,コバノミツバツツジ,シンジュ,オオイヌノフグリ,タチイヌノフグリ,モンシロチョウ,スジグロシロチョウ,ベニシジミ,アカタテハ,ツマキチョウ,ヒキガエルの死骸(骨),アカガエルのオタマジャクシ,ジュズダマの実,ウスノキ,サルトリイバラ,クマバチ,シャガ,タチツボスミレ,アセビ,ビロードツリアブ,ミツバアケビの花,コナラの虫えい,アジアイトトンボ,クロヤマアリとその巣,マルバアオダモ,カラタチ,園芸種のヒナギク,モミジの花,シジュウカラ,コゲラ(概ね観察順)
文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子
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