まだ梅雨明け宣言がされていませんでしたが,雨は降らず暑い曇りがちの晴れになりました.歩くと汗が出て目の中に入りそうになり,ハンカチではなくタオルで汗を拭きました.濃緑葉の桜並木の街路や周辺の野草などは,既に真夏の様相でした.新池の水面は2/3以上がスイレン(睡蓮,スイレン科)に覆われ,わずかな水面上をコシアキトンボ(腰空蜻蛉,トンボ科)とチョウトンボ(蝶蜻蛉,トンボ科)が飛んでいました.水鳥は水面にはおらず,1羽のアオサギ(青鷺,サギ科)だけが,岸辺にいて小魚をねらっていました.センダン(栴檀,センダン科)は,1cm大の緑の光沢のある実を沢山つけていました.池周辺では,蝉の声はまだしませんでしたが,虫の声は既にしていました.蒸し暑い日でしたが,参加者は子供2人を含む39名でした.
まず,先月ヒバカリ(日計,ナミヘビ科)の死骸を持って帰った参加者が,骨と皮を標本にしたものを持ってこられたので,皆でじっくりと観察しました.また,この標本作成者が,猪高緑地の棚田で捕獲した生きたヒバカリ(雌)も持ってこられたので,順番に手で持って観察しました.もちろん,今回の観察会終了後に猪高緑地に返す予定のものです.ヒバカリの下顎は2つに割れていて,左右が交互に動いて大きな獲物を口の奥に引き込む様子の説明がありました.小さな男の子も,喜んでヒバカリに触っていました.ひんやりとしてすべすべしているという感想がでました.子供の頃にポケットに入れて遊んでいたという人もいました.何故,漢字で「日計」と書くかという質問に,かまれるとその日ばかり(日計)で死ぬと言う意味で名前がついたという説明がありました.実際は毒を持っていないので,どうしてそのような名前がついたかは疑問です.
先月の報告を見ながら,観察したヤママユガ(山繭蛾,ヤママユガ科)が約1ヶ月半かけて蛾になったという報告がありました.先月問題となり持ち帰ったイチモンジカメノコハムシ(一文字亀子葉虫,ハムシ科)の幼虫は,成虫になったそうで,脱皮殻を持ってこられました.背中に付けている脱皮殻が重なっているという観察結果が報告されましたが,脱皮殻の頭の大きさに矛盾があり今後の検討課題になりました.どうして幼虫が脱皮殻を脱ぎ捨てないのかの議論もありました.偶然残ってしまって,それが生き残ったという説も出ました.
青色の花のついたツユクサ(露草,ツユクサ科)を持ってこられた参加者からツユクサは,葉の形が鴨の頭に似ているので鴨頭草(ツキクサ)と昔は言われていたという説明がありました.以下の万葉の歌が有名なようです.
鴨頭草に 衣色どり 摺(す)らめども 移ろう色と いふが苦しさ
作者 不明 巻7-1339
(鴨頭草で衣を染めて摺りたいけれど,色が変わりやすいというところが難しいところ.
移り気の多い男からの求婚を,露草で染めても色が変わりやすいことでたとえています.)
集合場所で最後に,シモフリスズメ(霜降雀蛾,スズメガ科)の脱皮殻も観察しました.
ここまでで,10:10になってしまい急いで出発しました.持ち寄ったものでこんなに時間を使う変な観察会という感想もありましたが,参加者は満足しているようでした.
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イチモンジカメノコハムシの脱皮殻 |
ツユクサの花 |
シモフリスズメの脱皮殻 |
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オタマジャクシ池のある農道に入ると,道の端が掘り起こされて笹の根が地面にたくさん出ていました.約2cm大と1cm大の2匹のヒキガエル(蟾蜍,ヒキガエル科)も見つけました.最初は小さいのはアカガエルとされましたが模様が似ているので,どちらもヒキガエルということになりました.ただし,大きい方が今年生まれたものか2年目のものかどうかは議論が別れました.笹の根は,どこで切られても,発芽できるようになっているという説明を聞いているときに,実際に芽が出ている根を見つけた参加者がいました.道の中間まで根を伸ばしているのは,チップを道にまいたせいだろうということになりました.「笹の進入,竹の暴走」という言葉で,笹や竹の繁殖の強さを言う参加者がいました.ヒマワリ畑では,ヒマワリ(向日葵,キク科)の回りに沢山茂った雑草を数名の人が取っていました.
キクイモ(菊芋,キク科)が大きく茂っている横の道で,オオバコ(大葉子,オオバコ科)を観察しました.葉を両側から引っ張って,葉脈だけが残って切れない様子を観察しました.子供の頃,よくオオバコの茎で草相撲遊びをしたことを思い出しました.オオバコは,里山の代表的な草で,踏まれても踏まれても生えてくるのは,オオバコの実は水が付くと粘着性が出て,履き物にくっついて移動して増えるためという話がでました.実際にオオバコの実を水筒の水につけて粘着性が出ることを確認した参加者がいました.オオバコの全草を乾燥したものを,車前子(しゃぜんし)または車前草(しゃぜんそう)といい日本薬局方に収録された生薬だそうで,利尿剤や下痢止めに使うようです.
このときにマツモムシ(松藻虫,マツモムシ科)をすくう為に持ってきた網にキリギリス(螽?,キリギリス科)が一匹とまったので,写真をアップで撮りました.近くのギシギシ(羊蹄,タデ科)の葉が虫に食われ穴だらけになっていました.
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オオバコの葉 |
キリギリス |
虫に食われたギシギシ |
ギシギシを食べた幼虫 |
草原にはヤブガラシ(薮枯,ブドウ科)がいっぱいあり,葉が変形したツルの出方を観察しました.節ごとに数えると「あるあるなし」でツルがついているのを確認しました.また,花のついた茎は,基部で三又にわかれ,それより上は2又で分かれて空間を構成しているのを確認しました.花びらと雄しべは,花が咲いたあとすぐ散るそうで,淡紅色の花盤が目立つようになっていました.ここに蜜が多くあるので,スズメバチ(雀蜂,スズメバチ科)を含む虫が沢山集まるようです.この部分を実際になめて甘いのを確認した参加者もいました.
リュウゼツサイ(龍舌菜,キク科)が道端に生えていて,名前は竜の舌のように長い葉という意味だという説明がありました.昔は,ニワトリ(鶏,キジ科)に餌としてこれを与えたそうです.
ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い,タデ科)とイシミカワ(石見川・石実皮・石膠,タデ科)の違いを観察しました.花が咲いていれば,ピンク色のものがママコノシリヌグイとすぐわかりますが,それ以外は非常によく似ています.茎に託葉があるのがイシミカワという人もいましたが,ママコノシリヌグイにも小さいですが.託葉はありました.葉柄の付き方が,葉の内側に入っているのがママコノシリヌグイのようです.テレビの取材で,ママコノシリヌグイを説明するときに,名前が差別用語になるのではという話題もでました.
イシミカワを観察しているときに,ウドンゲ(クサカゲロウの卵)を発見しました.ウドンゲ(優曇華)というのは,仏教の中で「三千年に一度花を開くという想像上の植物」ですが,優曇華の花というのは,“めったにないもののたとえ”として使われる用語です.ここでは,クサカゲロウ(草蜉蝣・臭蜉蝣,クサカゲロウ科)の卵で,細い糸の先端に卵がついていました.周辺にチョウトンボも飛んでいました.大きな犬の糞が柵の下にあり,踏まないように注意があったときに,昆虫好きな参加者が,ひっくり返して糞の下にエンマコガネ(閻魔黄金,コガネムシ科)がいるのを見つけました.
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ママコノシリヌグイ |
イシミカワ |
ウドンゲ(クサカゲロウの卵) |
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トンボ池に到着して,ヒメダカ(緋目高,メダカ科)が数匹水中を泳いでいるのを見つけて,誰かが無責任に放したのだろうということになりました.網でマツモムシ(松藻虫,マツモムシ科)を捕って皆で観察しました.大きいのと小さいものがいました.10月まで卵を産むので,大きさの違うものがいるのだろうということになりました.小さいのは幼虫だったようです.マツモムシと一緒に捕れた小さい昆虫は,後でコミズムシ(小水虫,ミズムシ科,別名:フウセンムシ)であることが分かったとの連絡がありました.
【外部リンク】コミズムシ(虫なび)
【外部リンク】マツモムシ(昆虫エクスプローラ)
イトトンボ(糸蜻蛉)のヤゴも網で捕獲しました.3本の尻尾のようなものがエラであるいう説明がありました.
最近見るようになった外来種のクモガタテントウ(雲形天道,テントウムシ科)を採取した参加者がいました.小さすぎて写真に撮っても判別は難しいくらいでしたが,繁殖力は強いようです.
湿地では,ヤノネグサ(矢の根草,タデ科),ミゾソバ(溝蕎麦,タデ科,別名:牛額草),コナギ(小菜葱,ミズアオイ科),アキノウナギツカミ(秋鰻攫,タデ科),ボントクタデ(ぼんとく蓼,タデ科,ボントクは愚鈍者(ポンツク)の意)などが見つかりました.水田でよく見かける植物たちです.
水田から少し山側に入ったところで,シャシャンボ(小小坊,ツツジ科)の数枚の葉に沢山の蛾の幼虫が集まり,葉脈を除いて葉を食べ尽くしていました.そのため,葉が透けていて葉の裏側から表面にいる幼虫が見えました.幼虫の種別は同定できませんでした.近くのウスノキ(臼木,ツツジ科)に1つだけ臼形の赤い実がついていました,他の実はまだ緑色でした.溝端に,小さな黄色い花を付けたケキツネボタン(毛狐牡丹,キンポウゲ科)がありました.山側には,ヒメカンアオイ(姫寒葵,ウマノスズクサ科)の群生が2つありました.間伐して陽が入るようにしたため増えているようでした.
奥の湿地にサギソウ(鷺草,ラン科)を見つけに行きましたが,まだ花は咲いていませんでした.このときタマムシ(玉虫,タマムシ科)がゆっくりと頭上を飛んで行くのを観察しました.途中で,笹の葉の裏についたヒメベッコウバチ(姫鼈甲蜂,ベッコウバチ科)の10cm長くらいの泥の巣を見つけました.片側の端に穴があいていました,さらに,ヌルデ(白膠木,ウルシ科)の葉に2cm大のトックリバチ(徳利蜂,スズメバチ科)の泥の巣も見つけて観察しました.
ハクモクレン(白木蓮,モクレン科)の花芽を観察しました.とっくに花の時期は終わっていますので,来年用の冬芽(夏芽?)で,1年前から準備しているのだろうかという疑問が出ました.強く剪定すると,時期はずれに花を付けることもあるという話も出ました.ここで,ジンガサハムシ(陣笠葉虫,ハムシ科)とイチモンジカメノコハムシ(一文字亀子葉虫,ハムシ科)の成虫を見つけました.ジンガサハムシの金色は大変きれいですが,写真に撮ってもそれ程には見えません.葉の上に2匹のギンツバメ(銀燕,ツバメガ科)がとまっていました.その形と色から,唇のように見えて,ポップアートみたいという感想がでました.
コクワガタ(小鍬形,クワガタムシ科)を見つけた子供もいました.大きなキリ(桐,ウマノハグサ科)の木の前に,2mを超える高さのキリの実生(みしょう,種から芽を出して成長)がありました.この幼木の葉は大きかったですが,虫にひどく食われていました.子供が葉を強く引っ張ったので茎が折れてしまいました.橙色の花を沢山付けたヤブカンゾウ(藪萱草,ユリ科)の群生が近くにありました.緑の実を付けているマユミ(真弓,ニシキギ科)もありました.
感想会は,日陰のコケの生えている場所で行いました.コケの上には数枚の葉をもった数cm高の可愛いイロハモミジ(伊呂波紅葉,カエデ科)の実生が数本ありました.これ以上は大きくはなれないのだろうという感想がでました.1本だけピンクの花をつけたネジバナ(捩花,ラン科)がまだありました.頭上ではツバメ(燕,ツバメ科)が飛び交い,周辺ではしきりに虫の音が聞こえました.カラス(烏,カラス科)の赤ちゃんの甘えた鳴き声もしました.ここでも,まだセミの声は聞こえませんでした.タマムシの翅が虫眼鏡と一緒に回覧されました.
ヒバカリの骨格標本は,まず,皮をはいで肉をミルワーム(mealworm,ゴミムシダマシ科)に2日間食べさせて,それからポリデントにつけてからオキシドールでふくというような手順を踏んだという説明がありました.
水田で観察したタデ科の植物に関連して,鮎の塩焼きなどに使うタデ酢には,香辛料としてどのタデ科の植物を使うかが話題にでました.どうやら,ヤナギタデ(柳蓼,タデ科)の葉をすりおろし酢に混ぜてつくるようです.また,刺身にワサビとともに,妻(つま)として添えられている紅タデ(芽タデ)は,この植物の種子の芽生え(子葉)だそうです.ヤナギタデは,すでに平安朝の昔から香辛料として用いられてきており,江戸時代には栽培品種も多く作られたということです.葉を噛むと,辛くて口の中が,ただれるという意味から「タデ」という言葉が生まれたと言われているそうです.ヤナギタデは,別名で「ホンタデ(本蓼)」とか「マタデ(真蓼)」とも呼ばれています.これは「これが正真正銘の辛いタデである」という意味から名づけられたものであるという記述がHPにありました.
【外部リンク】虫も好きずきのヤナギタデ(日本新薬 山科植物資料館ハーブの館)
大変蒸し暑い日でしたが,植物や昆虫に生きる力を与えられたように感じた観察会になりました.
観察項目:ヒバカリ,ヒバカリの骨と皮の標本,イチモンジカメノコハムシのサナギの脱皮殻,シモフリスズメの脱皮殻,ツユクサ,ヒマワリ,ヒキガエル,オオバコ,エンマコガネ,ヤブガラシ,ママコノシリヌグイ,イシミカワ,リュウゼツサイ,ウドンゲ,ミゾソバ(ウシビタイ),アキノウナギツカミ,シロバナサクラタデ,ボントクタデ,ヤノネグサ,サルマメ,マツモムシ,コミズムシ,イトトンボのヤゴ,クモガタテントウ,オオシオカラ,ウスノキ,シャシャンボに付いた蛾の幼虫,コナギについたオオミズゾウムシ,ハクモクレンの花芽,アベマキの実,ジンガサハムシ,イチモンジカメノコハムシ,ギンツバメ,ヤブカンゾウ,キリ,ヒメベッコウバチの巣,トックリバチの巣,キリギリス,コクワガタ,ネジバナ,イロハモミジの実生(概ね観察順)
文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子
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