陽差しの中では既に初春の様相でした.もちろんじっとしているとまだ寒いので帽子と手袋をつけていましたが,よく歩く藪こぎにはもってこいの日よりでした.水面にスイレン(睡蓮,スイレン科)が全くなくなった新池には小さなさざ波がたち,カイツブリ(鳰,カイツブリ科)とオオバン(大鷭,クイナ科)の各2羽だけが水面上を動いていました.ヒドリガモ(緋鳥鴨,カモ科)などは樹木の下に隠れていました.そのヒドリガモは20羽までは数えましたが,樹木の下で見にくくそれ以上は数えられませんでした.新池の土手のセンダン(栴檀,センダン科)にはまだ多くの実がついていましたが,歩道にもたくさんの実が落ちていました.今年もムクドリ(椋鳥,ムクドリ科)やヒヨドリ(鵯,ヒヨドリ科)などの野鳥が食べきれなかったようです.参加者は,大人31名と子供3名でした.
里山の家の前の集合場所で,まず,参加者が持って来たフキノトウ(蕗の薹,キク科)を見ながらフキ味噌を皆で食べました.春の季節の味でした.次に,30cm長くらいの台湾の太いキササゲ(木大角豆,ノウゼンカズラ科)の実と,長さはほぼ同じですがずっと細い日本のキササゲの実を観察しました.一緒にノウゼンカズラ(凌霄花,ノウゼンカズラ科)の実も比較しました.日本のキササゲも,元は中国原産で,10m以上になる高木でその実は利尿薬として使われるようです.タイワンキササゲは参加者が台湾から持ってきたものでした.
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フキノトウとフキ味噌 |
タイワンキササゲとキササゲおよびノウゼンカズラの実 |
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アオギリ(青桐,アオギリ科)の種を見せながら,先月案内のあった展示会の「種子のデザイン Seed Design」の本の紹介がありました.種のついた果皮が「風に舞うボート」として紹介されていました.アオギリは平和公園にもありますが,5弁の果皮に種が非対称につきます.
ヒイラギ(柊,モクセイ科)の鋸歯のある葉と鋸歯のない葉を見せて,老齢の葉には鋸歯がないという説明がありました.鋸歯は,葉が鹿や兎に食べられないようにしているという説明でした.
次に,ハシリグモ(走蜘蛛,キシダグモ科)の白い卵嚢とナガコガネグモ(長黄金蜘蛛,コガネグモ科)の茶色の卵嚢を観察しました.一部の雄のクモは採取しにくく,卵から育てて標本にすることが求められているそうです.ポケットにいれたままのタイサンボク(泰山木,モクレン科)の実を見せた参加者もいました.子供の頃,土筆を大きくしたようなタイサンボクの実をチョーク代わりにしてコンクリートに絵を描いていたことを思い出しました.野菜箱から出てきたクサギカメムシ(臭木亀虫,カメムシ科)を持ってきた参加者もいました.一度出てくるともう越冬モードに戻れないということでした.
里山の家の上空高く2羽のカワウ(川鵜,ウ科)が飛んでいきました.この時に出発しようとして,先月の報告を見ていないことに気づきました.報告の中のクマザサ(熊笹,イネ科)の記述を見て,能では狂い乱れている人物の印として笹を持つ(狂い笹)という話がでました.3月15日に演じられる隅田川では,母親がさらわれた子供を探し,その死を知る場面が有名です.
先月観察した鷹に食べられた鳩の羽は,アオバト(緑鳩,ハト科)と判明しました.アオバトは,毎年平和公園の探鳥会で何度か観察されますが,珍しい種の1つです.
10時07分に出発して,大坂池の直ぐ横に植えられた3m高くらいの木を観察しました.鋸歯のある厚くて堅い葉で赤い実がついていました.そこではバクチノキ(博打木,バラ科)ということになりましたが,後で実の形などから,タラヨウ(多羅葉,モチノキ科,別名:葉書の木)ではないかということになりました.どちらの木の葉にも傷をつけて文字が書けます.
【外部リンク】タラヨウ(松江の花図鑑)
炭焼広場で,ナノハナ(菜の花,アブラナ科)畑を見ました.ナノハナの葉が縮れていましたが,観賞用の菜の花で食べてもおいしくないそうです.途中で,アカメヤナギ(赤芽柳,ヤナギ科別名:マルバヤナギ(円葉柳))の冬芽を観察しました.
芝生広場の向えの湿地の池で,ニホンアカガエル(日本赤蛙,アカガエル科)の卵塊を観察しました.他の池やせせらぎには卵塊はなく,アカガエルはこの池だけが安全と思ったようです.ヒキガエルのような紐状の卵塊ではなく,つぶつぶの透明なゼリー状のセル(室)の中に卵があり,それらが連なって小山のような形をしていました.男の子が,小さなパレットにアカガエルの卵塊をいっぱいのせました.透明なゼリー状のセルに卵が1個だけかどうかを観察しました.層状に重なっていると,下の卵が一緒に見えるので,別の小さな卵塊に入れ替え,かつ,さらに少しだけに減らして 1層になるようにして観察しました.その結果,1セルに1卵ということになりました.その後,新しい卵塊と古い卵塊を並べて観察しました.古い卵塊は水を吸ってゼリー状のセルが大きく,レンズ効果で卵が大きく見えましたが,多分物理的な卵の大きさは同じだろうということになりました.アカガエルの卵塊はまさに春が来た(春告卵)ということでしょう.周辺に親のアカガエルは見ないので,また冬ごもりに戻ったのではということも話題になりました.
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ニホンアカガエルの卵塊の観察 |
古い卵塊と新しい卵塊の比較 |
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この後,少し東に歩いてから斜面の藪こぎを始めて,キラニン広場まで向かいました.途中でシンジュ(神樹,ニガキ科,別名:ニワウルシ)の種をたくさん見つけました.また,赤っぽいボクトウガ(木蠹蛾,ボクトウガ科)の幼虫の糞を細い木の根元で見つけました.糞の大きさが2〜3mm程度と大きさがそろっており,1匹のボクトウガの糞であれば成長の順に大きさが変わるはずと虫好きの女性に指摘されました.表面の粒を除くと下には小さな粒のものがあり,確かに糞の大きさが変わったのだろうということになりました.赤い糞の色は,樹木の色と違いますが,酸化したためという説明でした.
藪こぎの途中では,赤い実のついたセンリョウ(千両,センリョウ科),マンリョウ(万両,ヤブコウジ科),カナメモチ(要黐,バラ科)などがありました.数株のコクラン(黒蘭,ラン科)もありました.
ゴミムシダマシ(塵虫騙,ゴミムシダマシ科)とエサキモンキツノカメムシ(江崎紋黄角亀虫,ツノカメムシ科)の成虫を立ち枯れした桜などの木から見つけました.ノイバラ(野茨,バラ科)があると邪魔で進めないため避けて藪こぎをしました.
キラニン広場に着いて,ある参加者が持ってきたビニール袋に入れた七福の種を皆で見ました.カラスウリ(烏瓜,ウリ科),ゴーヤ(苦瓜,ウリ科),センリョウ(千両,センリョウ科),マンリョウ(万両,ヤブコウジ科),ナンテン(南天,メギ科),オガタマノキ(招霊木,モクレン科),ユズリハ(譲葉,ユズリハ科)の実でした.東に向かって歩いているときに,上空に烏が乱舞して風に向かって遊んでいるようでした.
いつものカンアオイの群生地に着いて葉と花の数を数えました.カクレミノ(隠れ蓑,ウコギ科)やヒイラギ(柊,モクセイ科)の幼木などが周囲にありました.また,大きな倒木がこのコロニーの端に覆い被さるようになっていました.のこぎりを持ってきていなかったので,手で折れる枝だけを除去しました.通りにくいので,カンアオイが盗採取されないので,この方がよいという意見も出ました.
例年のようにコロニーごとに,また大きなコロニーは枯枝で分けて,それぞれグループを作って葉と花の数を数えました.その結果,ヒメカンアオイ(姫寒葵,ウマノスズクサ科),スズカカンアオイ(鈴鹿寒葵,ウマノスズクサ科)およびゼニバサイシン(銭葉細辛,ウマノスズクサ科)は以下のような数になりました.( )内は,昨年数えた値です.
種類 葉の数 花の数
ヒメカンアオイ 804(821) 203(222)
スズカカンアオイ 22(20) 13(6)
ゼニバサイシン 381(413) 90(73)
数える時期により多少の増減もありますが,概ね増加傾向のようです.数えた後で,枯葉をカンアオイの上にのせました.
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カクレミノ |
ヒメカンアオイの花 |
スズカカンアオイ |
ゼニバサイシン |
いつもより遅くなったので急いで,里山の家に戻りました.途中で,もう1つの別の場所のカンアオイを見ましたが,誰かに盗採取されて極端に少なくなっていました.芝生広場の端で数本の背の低いセイヨウバクチノキ(西洋博打木,バラ科)を観察して,葉の裏に文字が書けることを確認しました.
里山の家で感想会をしました.GPS機能のついたIPADを持って回った人がいて,地図上に赤い線で観察会の経路が表示されていました.2時間くらい歩きましたが,高々2.5km程度で,最も高い標高は86mでした.アオギリの話がまた出て,昔,アサガオ(朝顔,ヒルガオ科)の葉と思って育てたらアオギリだったという話がでました.春を感じた楽しい観察会になりました.
観察項目:フキノトウ,フキ味噌,アオギリの種,キササゲの実,タイワンキササゲの実,ノウゼンカズラの実,ヒイラギの葉,ハシリグモの卵嚢,ナガコガネグモの卵嚢,クサギカメムシ,タイサンボクの実,タラヨウ?,アカメヤナギの冬芽,ナノハナ,ニホンアカガエルの卵嚢,ニワウルシの冬芽と種,コクラン,ボクトウガの糞,ゴミムシダマシ,エサキモンキツノカメムシ,キマワリ,ゴミムシダマシ,クサギカメムシ,七福の種,カラスの大群,ハイネズ,カクレミノ,ヒイラギ,スズカカンアオイ,ヒメカンアオイ,ゼニバサイシン,セイヨウバクチノキ
文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子
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