陽がときどきは差すような曇りでしたが,まだ暑い日になりました.ツクツクボウシ(法師蝉,セミ科)の鳴き声とコオロギ(蟋蟀,コオロギ科)の鳴き声が混ざり,秋の気配も感じられました.新池のスイレン(睡蓮,スイレン科)の白い花は,先月と違いまばらになっていました.新池のコイは,先月と同じように藻の中でもぞもぞと動いていました.ツバメもまだ水面上を飛んでいました.コゲラ(小啄木鳥,キツツキ科)とモズ(百舌鳥,モズ科)の鳴き声も周辺で聞こえました.新池周辺では,アレチヌスビトハギ(荒地盗人萩,マメ科)の小さな薄紫色の花がたくさん咲いていました.ムクゲ(木槿,アオイ科)の大きな花にはハナムグリ(花潜り,コガネムシ科)とイチモンジセセリ(一文字?蝶,セセリチョウ科)が,蜜を求めて来ていました.参加者は子供5名を含む39名でした.
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アレチヌスビトハギの花 |
ムクゲの花に集まるイチモンジセセリチョウとハナムグリ |
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まず,先月の記録の報告がありました.新池のキンゴジカ(金午時花,アオイ科)については,自宅近くでも購入して植えられているという話が出ました.奥の細道で取り上げられたようにネムノキ(合歓木,マメ科)の花が,美人の西施(せいし)の泣いた姿に見えるという記述に関連して,西施は子供の頃から送られる相手国を滅ぼすように育てられたというエピソードが出ました.エビズル(蝦蔓,ブソウ科)に関しては,平和公園とは別の場所で見つけた実を食べてみて,ブドウの実と変わらなかったという報告がありました.夜の平和公園散策に関しての予告もありました.
次に,参加者が持ってきたイノコズチ(猪小槌,ヒユ科)を見ました.イノコズチには,一般にヒナタイノコズチ(日向猪小槌)とヒカゲイノコズチ(日陰猪小槌)の2種があるそうです.穂が長いヤナギノイノコズチ(柳猪小槌)もあるという説明がありました.実の形が小槌(コズチ)の形状に似ていることからこの名前がついたということでした.アフリカの草原の多様な動物を支えているのは,イノコズチのような成長の早いヒユ科やイネ科の植物であるという説明もありました.
【外部リンク】mizuaoiの植物記「ヒカゲイノコズチ・ヒカゲイノコズチ」
次に,鳥が食べて穴のあいたヤママユガ(天蚕,ヤママユガ科)の4cm大の繭を観察しました.その後,どんぐりのついたコナラ(木楢,ブナ科)の枝を観察しました.ハイイロチョッキリ(灰色丁切,オトシブミ科)が,どんぐりに産卵してから枝を切り落としたものでした.どんぐりの殻斗(かくと)とそのすぐ下に,産卵の跡である小さな穴があいていました.コナラの切り落とされた枝のきれいな切り口は,どのようにしてできたのかという疑問が出ました.雌の口吻は,雄の口吻より長く,切断しやすいのだろうという人もいました.また,なぜ枝を落とすのか,さらに枝のどこを切るのかという疑問が出ました.オトシブミ(落文,オトシブミ科)においても,巻いた葉を落とすものとそのまま枝にあるものがあります.枝を落とすのは,産卵されたどんぐりの実が柔らかいままの方が幼虫が食べやすい,また,幼虫はどんぐりから出た後,土中にもぐるためという人もいました.枝を切り落とさないと,産卵した穴の傷口からコナラが毒や幼虫の成長を抑止する物質を出すためという説もあるようです.どこの部分が切れやすいかという疑問については,一定のところをねらって切っているようですが,よく分からず今後の課題になりました.
【外部リンク】デジカメ自然観察記「チョッキリ!」
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穴のあいたヤママユガの繭 |
ハイイロチョッキリに切断されたコナラの断面 |
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私のベトナム土産である竹でできたやじろべいのトンボのおもちゃを子供が面白がって遊んでいるのを見て,ある参加者から描いてある目がトンボの目(複眼)でないという指摘がありました.別の男の子がショウリョウバッタ(精霊蝗虫,バッタ科)を捕まえたので皆で回して見ましたが,途中で逃げてしまいました.集合場所の大きく剪定されたイチョウ(銀杏または公孫樹,イチョウ科)には,ほんの少しの銀杏(ぎんなん)しかついていませんでした.
ここまでで,10:05になってしまい,急いで先週と同じ斜面の入り口から平和公園に入りました.斜面の右側のヤダケ(矢竹,タケ亜科)を見て,竹か笹かという質問が出ました.大きくなっても皮が桿を包んでいるため笹だという回答がありました.このヤダケは弓の矢になるため,城の中によく植えられているという指摘もありました.次に,先週も見たエビズル(蝦蔓,ブドウ科)を観察しました.今回もまだ実はつけていませんでした.報告にあったように巻きひげ(蔓)は葉と対生となって2つおきについていましたが,ノブドウ(野葡萄,ブドウ科)はすべてに蔓があるという指摘がありました.近くにモクレン(木蓮,モクレン科)の幼木がありました.種がどこかから飛んできて自生しているのだろうということでした.
アカトンボが別の木にとまったので観察しました.アカトンボの種類はマユタテアカネ(眉立茜,トンボ科)の雌だという人がいましたが,よく分かりませんでした.近くでイタドリ(虎杖,タデ科)が白い花を咲かせていました.また,ミズヒキ(水引,タデ科)が,赤い花のつぼみをつけていました.日陰になっていましたが,坂を歩いたため汗がふき出ました.
子供たちが捕虫網でクロイトトンボ(黒糸蜻蛉,イトトンボ科)とムスジイトトンボ(六条糸蜻蛉,イトトンボ科)を捕らえたので,観察ビンに入れて観察しました.また,男の子がソヨゴ(冬青,モチノキ科)の赤い実を道で拾ったので,雌木を皆で探しました.雄木のすぐ近くに,少しだけ実をつけた小さな雌木がありました.
道端に群生しているヤハズソウ(矢筈草,マメ科)に小さな紫色の花が咲いていたので観察しました.目立たない花ですが,このようなものを観察することが大事であるという説明がありました.ヤハズソウは,じゃんけん草として有名で,葉を両側から引っ張ると,矢筈の形(片方がチョキの形)になります.どうしてこのような切れ方をするのか,また,それがヤハズソウにとって意味があるのかという疑問が出ました.また,他の木の葉でも,きれいな形になって切れるかという疑問も出ました.ハギ(萩,マメ科)やコナラ(木楢,ブナ科)の葉を使って,子供達と引っ張ってみましたが,葉脈にしたがってきれいに切れるということはありませんでした.
赤い実のついたウスノキ(臼の木,ツツジ科)を観察しました.赤い実は,2〜3しかついておらず,じっくり観察することによって実が臼の形になっていることが分かりました.
前回アメリカセンダングサ(亜米利加栴檀草,キク科)とされたものを注意深く観察して,花が黄色で,総包がめだたなく,そして実のとげの数からセンダングサ(栴檀草,キク科)であることがわかりました.コセンダングサ(小栴檀草)ではという人もいましたが,コセンダングサは花の周りに舌状花がないはずなので,最終的にセンダングサだということになりました.
【外部リンク】かのんの樹木図鑑「アメリカセンダングサ」
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ヤハズソウの花 |
ウスノキの赤い実 |
センダングサの花 |
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藪こぎをして,もち米の水田へ行きました.稲穂より背の高いケイヌビエ(毛犬稗,イネ科)などの雑草が多い中で,稲穂がたれていました.今年は,田んぼの雑草を復活させるために,除草をわざとしなかったそうです.稲の根元に小さな薄紫色の花をつけたコナギ(小菜葱,ミズアオイ科)も多くありました.ケイヌビエの実は食べられるかという質問に対して,実が小さいので鳥は食べるが,人間は普通は食べないということでした.名古屋近郊の大きな水田でも,このケイヌビエが目立つ場所が最近あります.農薬をそれ程使わなくなったとともに,人手による除草も十分行われなくなったせいかもしれません.コナギは,昔は食用にしていたようですが,水田の雑草で農家にとっては厄介者であったようです.水田でヒメタイコウチ(姫太鼓打,タイコウチ科)を女の子が捕まえて観察しました.また,稲の葉にメイガ(螟蛾,メイガ科)の細長い幼虫を見つけました.
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ケイヌビエとイネ |
コナギ |
ヒメタイコウチ |
メイガの幼虫 |
もち米かウルチ米かを判定するのはもみの色で,赤いともち米だとわかるそうです.子供の頃,一面の水田の中で,稲穂の色が赤っぽいのがもち米だと教えられたことを思い出しました.水田のあぜには,アキノウナギツカミ(秋の鰻攫,タデ科)が白い花を咲かせていました.
水田のすぐ横の湿地では,シラタマホシクサ(白玉星草,ホシクサ科)が小さな白い花をたくさん咲かせていました.また,ミソハギ(禊萩,ミソハギ科),ヒヨドリバナ(鵯花,キク科)やイボグサ(疣草,ツユクサ科)も花を咲かせていました.また,ワレモコウ(吾木香,バラ科)の花は,蔓に巻かれて,かわいそうな姿になっていました.
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アキノウナギツカミ |
ヒヨドリバナの花のつぼみ |
蔓にからまれたワレモコウの花 |
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芝生広場まで行き,蔓が延びて数m上の樹上で沢山咲いているクズ(葛,マメ科)の紫色の花を見ました.独特の甘い香りが周りでしました.近くにヌルデ(白膠木,ウルシ科)の白い花もあり,数匹のクマバチ(熊蜂,ミツバチ科)がさかんに蜜や花粉を集めていました.近くで,女の子が網でウスバキトンボ(薄翅黄蜻蛉,トンボ科)を捕えました.
熱中症にならないために,早めに芝生広場で感想会を始めました.アベマキ(阿部槇,ブナ科)の日陰で,ツクツクボウシの鳴きしぐれの下で,各自が感想を述べました.途中で,雲が切れて,座っている場所に陽があたってしまい,暑い思いをしました.子供たちはアベマキの林の中にわけ入って遊びまわっていました.
ベトナムへ行ったもう1人の参加者から,お土産のハス(蓮,ハス科)の実の砂糖漬けが回され,皆で食べました.ベトナムでは,私はお汁粉のようにしたハスの実を食べましたが,ほのかな甘みでおいしかったことを思い出しました.この参加者から,英語でプラグの雄雌変換機をgender changerということに,日本語のジェンダーのイメージと違うという感想も出ました.ウクライナから留学している女子学生の参加者からジャムのようなお菓子も振舞われましたが,少しすっぱく日本人の口に合わないのか,二回りしても売れ残りました.
生協年金保険の純益の1%を環境キャンペーンとして,今年は「東山の森の会」に与えられるというアナウンスがありました.約60万円程度になるのではないかということでした.今後,有効に使っていきたいという代表者の発言がありました.
まだ暑かったですが,多くの生き物たちから秋の気配を感じた楽しい観察会になりました.
観察項目:イノコズチ,ヤママユガの繭,ハイイロチョッキリに切られたコナラの枝,ヤダケ,エビズル,クロイトトンボ,ムスジイトトンボ,ヤハズソウ,ヒメヤブランの花,モウセンゴケ,センダングサ,ウスノキの実,コナギ,ケイヌビエ,メイガの幼虫,シロバナサクラタデ,ミズギボシ,ミソハギ,シラタマホシクサ,サワギキョウ,ツルマメ,ワレモコウ,ヒメタイコウチ,アキノウナギツカミ,ヒヨドリバナ,イボグサ,クズの花,ヌルデ,クマバチ,ウスバキトンボ,ツクツクボウシ(概ね観察順)
文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子
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