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2009年 > 7月度の観察記録
7月度の観察記録
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 終日少しだけ日がさす曇り空でした.帽子をかぶっていると,髪の際に汗がたまりました.新池のスイレン(睡蓮,スイレン科)はたくさんの白い花を咲かせており真夏の様相でした.新池のわずかに残っている水面上では10匹以上のチョウトンボ(蝶蜻蛉,トンボ科)がふわふわと飛んでいました.新池周辺の鳥はハト(鳩,ハト科)やカラス(烏,カラス科)だけでした.クロガネモチ(黒鉄黐,モチノキ科),センダン(栴檀,センダン科)およびイチョウ(銀杏,イチョウ科)は,大きさは違いますが緑の実を付けていました.集合場所近くのムクゲ(木槿,アオイ科)と元清風荘のサルスベリ(百日紅,ミソハギ科)は,ともにピンク色の花を付けていました.参加者は,真夏の観察会としては多めの2名の子供を含む20名でした.

 まず,鉢に植えたハンノキ(榛の木,カバノキ科)と一緒に参加者が持ってきた約10cm長のオオミズアオ(大水青,ヤママユガ科)の幼虫を観察しました.ハンノキを食樹としているそうです.最終齢に近いまるまると太った緑色の幼虫でした.体に小さな穴があり寄生蜂に寄生されているかもしれないという話がありました.この幼虫とキアゲハ(黄揚羽,アゲハチョウ科)の幼虫のフンを比較して,その大きさの違いに驚きの声がでました.先月見たクサカゲロウ(草蜻蛉,クサカゲロウ科)の卵と繭が成虫になったため,繭とサナギの殻を持ってきた参加者がいました.

オオミズアオとハンノキ

 「昆虫と寄主植物」という本を持ってきた人がいて,Host Plant(寄主植物)とFood Plant(食草.食樹植物)は使い分けるべきという議論が,またありました.例えば,ゴイシシジミ(碁石小灰,ゴイシシジミ科)は笹についたアブラムシ(油虫,アブラムシ科)を食べるので,笹はゴイシシジミにとって寄主植物で,単に食べるための植物は食草・食樹植物というべきということでした.また,文科省の学術用語辞典で,蝶と蛾を含むリンシ目がチョウ目へと名称変更されたことについて,わかりにくくなったという参加者がいました.関係の論文を回覧しているときに,赤いアリがその論文の上をはっているのを見つけました.捕まえて,拡大レンズのついた容器に入れて観察しました.外来種かもしれないということでした.
 次に,参加者の持ってきたスギ(杉,スギ科),ヒノキ(桧,ヒノキ科),サワラ(椹,ヒノキ科)およびコノテガシワ(児手柏,ヒノキ科)の葉を比較しました.コノテガシワには独特の形の実がついており,中の小さな種は精力剤になるという説明がありました.サワラは,アスナロ(翌檜,ヒノキ科)ではという人もいましたが,葉の形がY型になっており,人型のアスナロではないということになりました.

ヒノキ・スギ・サワラ・コノテガシワ

 今年の蝉の初鳴きが話題になり,名古屋では7月7日にクマゼミ(熊蝉,セミ科)が鳴いたという人がいました.アブラゼミ(油蝉,セミ科)が羽化を失敗した蝉殻を持ってきた人がいて観察しました.このとき,ニイニイゼミ(にいにい蝉,セミ科)の鳴き声が周辺でしました.
 ヤマカガシ(山楝蛇,ナミヘビ科)が蛙を飲み込んでいる写真を持ってきた参加者がいました.ヤマカガシと蛙の頭がくっついているような写真で,皆で回覧して驚きを持って見ました.
 先月に引き続いて大きな木の葉ということで,モクレン(木蓮,モクレン科)の葉を持ってきた参加者がいました.このときクロアゲハ(黒揚羽,アゲハチョウ科)が周辺を飛びました.カラスアゲハ(烏揚羽,アゲハチョウ科)も少し前に飛んでいたそうです.
 先月の報告を見て,話題になったカタツムリはイセノナミマイマイ(伊勢並舞々,オナジマイマイ科)であるとの報告がありました.ここまでで,10:10になってしまい,急いで出発しました.

 それでも,最初は集合場所のイチョウの枝の切断面を見て,切り口の周辺が盛り上がっているのを観察しました.盛り上がった場所の細胞分裂に関連して,ピエリシンがモンシロチョウ(紋白蝶,モンシロチョウ科)から抽出され,これがガンの薬(ガン細胞をアポトーシス(一種の自殺)に導く)になるということで,生物の多様性の重要性についての話しになりました.イチョウの葉には殺菌作用があり,葉の形のかんざしもあるという話も出ました.

   【外部リンク】モンシロチョウとがん治療の夢(サイエンティストライブラリー)

イチョウの枝の切断面

 元清風荘の土手で,ハンノキの実生(みしょう)を観察しました.周辺の日当たりがよくなって数本の実生が親木の根本にありました.石垣の近くの桑の幼木の幹に白いアオバハゴロモ(青翅羽衣,アオバハゴロモ科)の幼虫がいました.手で触ると跳ねて下に落ちました.この石垣の奥に10数株のヌマトラノオ(沼虎の尾,サクラソウ科)が小さな白い花を咲かせていました.昔は,どこにでも咲いていたのに最近は少なくなったという感想がでました.アリの行列がこの100mを越える石垣の上に続いており,石垣横のカナメモチ(要黐,バラ科)の生け垣の下までのびていました.双方向にアリは向かっており,卵やさなぎを抱えているアリもいました.巣の引っ越しかもしれませんでした.すごい数のアリに驚きの声があがりました.

アオバハゴロモの幼虫 ヌマトラノオ

 いつもの農道から平和公園に入りましたが,農道の片側がフェンスで仕切られ,工事が始まっていました.オタマジャクシ池の奥のゴボウ(牛蒡,キク科)のつぼみを見ました.ここで,ゴマダラカミキリ(胡麻斑髪切,カミキリムシ科)を見つけて観察しました.ゴマダラカミキリの足は独特の形で,「靴下をはいるようだ」とか「マニキュアをしているようだ」というような感想がでました.
さらに進んだ場所でも柵をして工事中でした.表土を50cmだけ剥いで鉛を除去する工事をしていて,除去した土砂は秋田県の廃棄場まで船で持っていくという説明がありました.ここでもニイニイゼミの鳴き声がしました.

 キリ(桐,ゴマノハグサ科)の大木の手前の幼木の大きな葉の裏に,独特の尾角を持ったスズメガ(雀蛾,スズメガ科)の幼虫が1匹いました.他の葉の裏にはカメムシ(亀虫,カメムシ科)の34匹の幼虫と卵がかたまっていました.幼木の葉は,表裏に毛があり,柔らかく気持ちがよいという感想がでました.親木の新葉と比べた参加者がいて,やはり幼木の葉の方が気持ちがよいという感想でした.
 工事後は,水路に毎分70リットルの井戸水を流すそうです.周辺の除草した草を公園外に運び出すため,車両が通れる木道を,この水路に造る工事が始まっていました.

ゴマダラカミキリ キリの葉についたスズメガの幼虫 カメムシの幼虫

 水路の土手で,カラスウリ(烏瓜,ウリ科)の根本を掘ってイモを露出させて観察しました.すぐ横の木には,20cm程度の大きなマンネンタケ(万年茸,マンネンタケ科)が付いていました.
 マンリョウ(万両,ヤブコウジ科)が小さな白い花を咲かせていました.近くのクマザサ(隈笹,イネ科)の葉は,全体が緑で隈がありませんでした.虫に食われて,順番に穴が小さくなっているおもしろい造形のクマザサの葉がありました.

虫に食われたクマザサの葉

 ヒメウラナミジャノメ(姫裏波蛇目,ジャノメチョウ科)を捕まえた人がいましたが,ボロになっており,表面の色もきれいではありませんでした.小さな実をつけたムラサキシキブ(紫式部,クマツヅラ科)も近くにありました.クマゼミ(熊蝉,セミ科)の鳴き声が,初めてここでしました.
 笹の葉がヤマノイモ(山芋,ヤマノイモ科)の蔓に絡まれて,これも不思議な造形になっていました.最初,ニガイモ(苦芋,ヤマノイモ科,別名:オニドコロ)の蔓かと思った人がいましたが,ムカゴを食べてみて苦くないのでヤマノイモということになりました.蔓の巻き方が,アサガオ(朝顔,アサガオ科)と同じで左巻きということを観察しました.蔓の先から見て左巻きですが,最近は蔓が進む方向に正の座標軸をとり,右ねじの法則を適用して右巻きという人も多くなりました.
 関連して,北半球と南半球とでは,排水口の渦の向きが反対という話が出て,赤道上ではどのようになるかという問いがありました.私は,ケニヤで赤道直上(Equator)へ行きましたが,観光客目当ての地元の人たちが穴のあいた容器を持って渦を造って,緯度零度の南北で渦の向きが違うことを見せられた経験があります.これは明らかに初期の回転方向を操作したものだと思います,物理に詳しい人は,コリオリの力は,台風や低気圧(北半球で左回り,南半球で右回り)などの大きなものには影響を与えますが,風呂や流しの排水口の渦のような小さなものは,排水口周辺の形状などで決まる初期方向に従うのであり,どちらの向きになるかはほとんど偶然だと主張しています.

   【外部リンク】コリオリの力(リカちゃんのサブノート)

   【外部リンク】赤道直下の町 Nanyukiに行こう!

 小さなトビナナフシ(飛七節,ナナフシ科)を見つけて観察しました.ナナフシモドキ(七節擬,ナナフシ科)との違いが話題になりました.近くの南米原産の帰化植物であるシマスズメノヒエ(島雀の稗,イネ科)を観察して,緑色の花の中で目立つ黒紫色のものは雄しべの柱頭であるとの説明がありました.

トビナナフシ シマスズメノヒエ

 畑の跡地で,愛護会の人たちが植えたヒマワリ(向日葵,キク科)を見ました.まだ,花は咲いていませんでした.ここで,カノコガ(鹿子蛾,カノコガ科)が飛んできて参加者の袖にとまりました.なかなか飛ばないので鹿子模様の翅をもった姿をじっくりと写真にとりました.また,男の子がゾウムシ(象虫)を捕ってきたので,指につけて観察しました.このゾウムシは,後でコナラシギゾウムシ(木楢鴫象虫,ゾウムシ科)と分かりました.翅が半分おかしくなっていて,指の先端から飛ぼうとしても飛べませんでした.
 クマゼミの抜け殻を見つけて,目の間隔がアブラゼミに比べて大きく,出目であることをここで確認しました.

カノコガ コナラシギゾウムシ

 5cm大の緑の実がたくさん付いているカラタチ(枳,ミカン科)を観察しました.実は硬くてなかなか割れませんでしたが,素手で無理矢理半分に割って断面を見ました.果汁をなめてみて,香りの少ないライムのようで,サンマにかけるほどではないという感想がでました.このとき,水路の上を2匹のオニヤンマ(鬼蜻蜒,オニヤンマ科)が飛んでいました.アベマキ(阿部槇,ブナ科)の1年目と2年目の実も観察しました.1年目の実は小さく,まさに点という感じでした.
 カンチク(寒竹,イネ科)を観察しました.大きな皮が根本にたくさん落ちていました.近くに,アカメガシワ(赤芽柏,トウダイグサ科)の雄木と雌木があり,花の付き方の違いがよく分かりました.イソノキ(磯の木,クロウメモドキ科)も観察しました.葉が2枚を1組にして(ニコニコ)枝についており,互生から対生への進化の途中という説明がありました.
 近くにイラガ(刺蛾,イラガ科)の幼虫(キントキ)が葉についた木があり,刺されると非常に痛いので,触らないように注意がありました.ヘクソカズラ(屁糞蔓,アカネ科)を見つけたとき,花だけはよいにおいがするという人がいましたが,実際に試しても花は何のにおいもしませんでした.葉の表面がつやつやしたハクサンボク(白山木,スイカズラ科)も一緒に観察しました.先端が赤い5mm大の実がたくさんついていました.

 パンパスグラス(別名:白銀葭,イネ科)のあるところで,井戸堀の機械を見ました.地下135mから,水を汲み上げるということで,数千万円かかるそうです.井戸のすぐ横のため池の予定地には,大きなマルバヤナギ(円葉柳,ヤナギ科)がありましたが,根本が水没しても枯れないそうです.

 モッコク(木斛,ツバキ科)を観察しましたが,白い花の盛りは過ぎていて,少しの花しかありませんでした.近くに,木全体が赤く見えるゴンズイ(権萃,ミツバウツギ科)もありました.赤い実がたくさんついていました.魚のゴンズイ(権瑞,ゴンズイ科)のように役に立たない(材として用途がない)ということでこの名前がついたと言われますが,野鳥はこの実がはじけて黒くて丸い種が見えたときに集まってきて食べます.

ゴンズイの実

 カキノキ(柿の木,カキ科)の木の下で,感想会をしました.モグラ穴も周辺にありました.イガグリのたくさんついたクリ(栗,ブナ科クリ属の総称)の木も近くにありました.感想としては,アリの行列やゴンズイの赤い実について多く出ました.7月にしては,それほど暑くはなく,多くの虫や植物が観察できた楽しい観察会になりました.

観察項目:オオミズアオの幼虫とそのフン,ハンノキ,ヒノキ,スギ,サワラ,コノテガシワ,キアゲハのフンとサナギの殻,クサカゲロウの繭とサナギの抜け殻,ヤマカガシの写真,カラスアゲハ,クロアゲハ,ニイニイゼミの鳴き声,イチョウ,ノブドウ,ヌマトラノオ,エビズル,アオバハゴロモの幼虫,アカアリ,アリの行列,ゴマダラカミキリ,ゴボウのつぼみ,スズメガの幼虫,キリ,カメムシの幼虫,トビナナフシ,ヤマイモ,コナスビの花,クマザサ,カラスウリのイモ,マンネンダケ,マンリョウ,ヒメウラナミジャノメ,ヒマワリ,コナラシギゾウムシ,アブラゼミの抜け殻,キリギリス,カラタチの実,トウチクの皮,スギの切り株,ハクサンボク,アカメガシワの雄木と雌木,井戸掘り機械,ゴンズイ,モッコク,マルバヤナギ,アオギリの花(概ね観察順)

文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子

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2009-9-6 581

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