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2009年 > 11月度の観察記録
11月度の観察記録
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 終日曇りで,少し小寒いくらいでした.街路のトウカエデ(唐楓,カエデ科)は,きれいに紅葉をしている木と緑のままの木が混在していました.サクラ(桜,バラ科)は,すっかり紅葉(黄葉)していましたが,多くの葉は既に落ちていました.集合場所近くの草はらでは,コオロギ(蟋蟀,コオロギ科)が鳴いていました.新池の奥のスイレン(睡蓮,スイレン科)のない水面に,ヒドリガモ(緋鳥鴨,カモ科)が23羽来ていました.逆立ちして藻をしきりに食べていました.陽が少し照り出した時,土手に隠れていたカイツブリ(鳰,カイツブリ科)6羽とバン(鷭,クイナ科)2羽が池のスイレンのあるところに出てきました.6羽のカイツブリの内,3羽は非常に小さく,仲良く水面を進んでいました.ハクセキレイ(白鶺鴒,セキレイ科)とモズ(百舌鳥,モズ科)も大きな鳴き声を上げていました.参加者は,子供1名を含めて28名でした.

紅葉した街路樹のトウカエデ ヒドリガモ

 まず,観察会の代表者がネパールで行ってきたトレッキングの話の中で,ヒメツルソバ(姫蔓蕎麦,タデ科)が,標高の高いところにもあったということで,集合場所の近くにあったピンク色の小さい花がつぶつぶ状に5mm径の球形に咲いたヒメツルソバを皆に見せました.原産がヒマラヤで,広くアジアに分布しているようです.雑草の1種で,常緑ほふく性多年草ですが,背が低く花が可愛いので,庭に植えている人も多いようです.
 まず,先月の報告の説明がありました.次に,参加者が自宅から持ってきた良く熟した2個のムベ(郁子,アケビ科)の赤紫色の8cm大の実を観察しました.「むべなるかな(天智天皇)」という伝説の果物です.ナイフで1つの実を半分に切って,皆で種の周辺のどろどろの内果皮を食べました.非常にジューシーでナイフで切っている時も,断面から果汁が流れ出ました.アケビ(通草,アケビ科)とほとんど味はかわらないという感想がでました.アケビは熟すと実は自然に割れますが,ムベは割れないそうです.また,ムベは常緑で常磐アケビとも言われているそうです.実の周辺の中果皮をとって食べた参加者もいましたが,うまくないという感想でした.ムベは自然に植生するのではなく,園芸で使うのが一般的なようです.雌雄同株ですが,別の木がないと実はならないそうです.ムベの種は,蒔くとよく発芽するということで,ビニール袋に入れて持ち帰った参加者がいました.

ヒメツルソバ ムベの実の断面

 次に,マテバシイ(全手葉椎,ブナ科)とスダジイ(すだ椎,ブナ科)の炒ったドングリを持って来た人がいたので皆で食べました.よく見るとツブラジイ(円椎,ブナ科)の小さなドングリもありました.マテバシイとスダジイのどちらがうまいかの判断は別れました.芋のようにおいしいと言った人に,できれば栗のようにと言ってやった方が良いのではと私が言いました.
 最後に,平和公園と東山公園での灯火採集で今年捕獲した昆虫の立派な標本を見ました.里山の家に置いておくそうです.コガネムシ(黄金虫,コガネムシ科),カミキリムシ(齧髪虫,カミキりムシ科,別名:天牛),コメツキムシ(米搗虫,コメツキムシ科),ゴミムシ(塵虫または芥虫,オサムシ科),ハンミョウ(斑猫,ハンミョウ科),テントウムシ(天道虫,テントウムシ科)などの種類の昆虫がきれいに配置されていました.あまりにきれいなので,標本にするときに虫を磨いたのではというような問いかけまでありました.この時,頭上でモズの高鳴きが聞こえました.

炒ったドングリ 昆虫標本

 10:05になり出発しました.まず,清風荘跡地の今後について説明がありました.原っぱのままになりそうで,ビジターセンターなどは計画倒れになったということでした.地域の人たちは,犯罪の発生を心配しているということでした.
 駐車場の里山の家は,なごや東山の森づくりの会の活動拠点施設として,現在リース中ですが,すぐ後ろに名古屋市の休憩所が造られており,里山の家は11月中に閉鎖されるそうです.残念だという声が多くでました.休憩所は名古屋市の職員によって運営されるので,これまでの実績がどこまで反映されるかは未定だそうです.

 平和公園入口近くの工事中の水路とため池を見ました.ため池の斜面からは,伏流水が流れ出ていました.芝生広場に向かって歩き,途中で工事中の炭焼き広場を見ました.まだ,石垣を積んだところであり,その上の生け垣の植栽について意見が聞かれました.レンギョウ(連翹,モクセイ科レンギョウ属),ユキヤナギ(雪柳,バラ科),サザンカ(山茶花,ツバキ科),チャ(茶,ツバキ科)や実のなる木については既に提案してあるそうです.参加者からは,ウバメガシ(姥目樫,ブナ科)やマンサク(万(満)作,マンサク科)が候補としてでました.ネムノキ(合歓木,ネムノキ科)をあげた人もいましたが,花はきれいですが,周辺に種で繁殖して暴れるので,よくないということになりました.
 湿地のナンキンハゼ(南京櫨,トウダイグサ科)は,きれいに紅葉しており白い実もたくさん見えましたが,野鳥はその実を食べに来ていませんでした.その近くで盛り土して芝生を植えた「集いの丘」に対して,批判的な意見が出ました.湿地には,水田と芦原を整備するそうです.

建設中の水路 炭焼き広場の説明

 芝生広場の中を通れるようにトラロープ張りをした道を通って北の林に入りました.狭い道のすぐ横の3cm大くらいの白い花をつけている野菊を観察しました.野菊は総称ですので,ノコンギク(野紺菊,キク科)とヨメナ(嫁菜,キク科)を判別することになりました.大半がノコンギクでしたが,1輪のみヨメナがあり,両者を比較しました.ヨメナの花の方が多少大きく見えましたが,花や葉の形だけでは判別不能でした.花の付け根の毛の長さが,ノコンギクは長くて,ヨメナは短いためほとんど見えないということで,花を半分に割って,ルーペで観察しました.ヨメナの若葉は,ヨメナご飯にして美味しく食べられるので,苦みがあって食べないノコンギクより好まれるようです.ヨメナは少し湿り気のある田んぼの淵や小川近くに自生しており,ノコンギクは山の日当たりの良い,わりと乾いたところに咲くそうです。

ノコンギク ヨメナ

 この場所は,鉛汚染のため林の中に入らないように柵を作るそうで,どのようなものがよいかという問いかけがありました.柵が無くても林の中には入らないので,柵はいらないという意見と,支柱だけを立てて,注意書きをすればよいという意見がでました.他の場所で,掲示だけの所もあるのであれば,ここも柵はいらないと言う意見が多数でした.
 藪こぎの途中で,幹の太さが30cm以上のコナラ(木楢,ブナ科)が3本ありましたが,どれもカシノナガキクイムシ(樫長木喰虫,ナガキクイムシ科)に入られ,木の粉が根元に落ちていました.樹液をたくさん出して抵抗している木もありました.場合によっては,枯れない木もあるそうです.ミヤマガマズミ(深山莢迷,スイカズラ科)の幼木がすぐ横にありました.葉や枝がつるつるなので,普通のガマズミ(莢迷,スイカズラ科)ではないということでした.少し歩いて,背が70cmくらいのカクレミノ(隠蓑,ウコギ科)を複数見つけました.名称の由来が聞かれ,「木が幼い若木の頃は葉に深い切れ込みが入りその姿が昔の雨具の蓑(みの)に形が似ている」,というのと「葉っぱが大きくて花や実が見えないから」の2つが出ました.カクレミノの上の方の葉は切れ込みがあり,蓑の形でしたが,下の葉は切れ込みがありませんでした.若木では2裂,3裂,5裂するものが混在するので「ジャンケンポンの木」という愛称もあるという話がありました.
根のはり方が弱く,台風の時などに倒れやすいという話も出ました.伊藤次郎左衛門の揚輝荘の庭には,幹の太さが30cm以上のカクレミノがあるそうです.日陰でも育つので,庭木として人気があり,このような若木は800円程度だそうです.雌雄異株で,その実は有毒だそうです.

カシノナガキクイムシの被害にあったコナラ ミヤマガマズミの新芽 カクレミノ

 近くの10cm径くらいの太さの幹をもつネジキ(捩木,ツツジ科)の根元に,つぶつぶの木くずの山がありました.ボクトウガ(木蠹蛾,ボクトウガ科)の幼虫のフンだそうです.後で,里山の家で5cm大のボクトウガの成虫標本を見ましたが,山のようなフンは,1匹の幼虫のものだそうで,ネジキの幹の地際にある幼虫の出入口の穴を探して見つけました.1mm大のフンを触ると柔らかく,すぐにぼろぼろになりました.

ボクトウガの幼虫のフン ボクトウガの幼虫があけた穴

 藪こぎを続けて,ユーカリ畑に着きました.落ちていた枯れ木を砕いて,中の昆虫を男の子が一生懸命探しました.オサムシ(筬虫,オサムシ科)などがでてきました.残念ながら,クワガタムシ(鍬形虫,クワガタムシ科)などはいませんでした.ここで,先日の東山動物園の猿が逃げたことや,ワニガメ(鰐亀,カミツキガメ科)などの外来種の駆除の話になりました.コゲラ(小啄木鳥,キツツキ科)の鳴き声が近くでしていました.
 その後,また藪こぎをしました.途中に朽ちた松の切り株がありましたが,中には何もいませんでした.この近くで,細いネジキの根元に鮮やかな色のフンをまた見つけました.ボクトウガの幼虫はネジキが好きなようです.近くに,ヒサカキ(非榊または姫榊,ツバキ科)が濃紫色の実を付けていました.シャシャンボ(小小坊,ツツジ科)との区別は,葉の裏の葉脈にとげとげがあるのがシャシャンボで,ないのがヒサカキで,葉の先端の形状がとがっているのがシャシャンボで,凹の形状になっているのがヒサカキという説明に引き続いて,実が食べられるのがシャシャンボで,苦くて食べられないのが,ヒサカキだという話があったとき,平気でヒサカキの実を食べた参加者が1人いました.この実を食べるこつは,カワラヒワ(河原鶸,アトリ科)などの鳥の気分になって,さっと一噛みして,吐き出せば甘い感触だけ残るそうです.しかし,それを聞いても試す気にはなりませんでした.
 藪こぎから抜けて,石段をおりました.途中で,サルマメ(猿豆,サルトリイバラ科(以前はユリ科))が数本ありました.あるひとつの木に赤い実が1つだけついていました.直立していて,つる状にはなっていませんでした.これまで,サルマメの葉がサルトリイバラ(猿捕茨,サルトリイバラ科(以前はユリ科))の葉に非常によく似ていて,幼木の時の区別がつきませんでした.石段を下りて,造成している平和公園入口近くのため池に戻りました.里山の家の前の電線の上に,1羽のジョウビタキ(上鶲または常鶲,ツグミ科)がじっとしていました.

ヒサカキ シャシャンボの実 サルマメ ジョウビタキ

 途中で半分くらいの参加者が,帰ってしまったので,久しぶりに里山の家の中で感想会をしました.もう,この里山の家も使えなくなるので,最後の機会になるかもしれないということでした.まず,最初にボクトウガの成虫標本を見ました.お弁当を食べながら最初に出た感想として,サルマメを見ることができてよかったというのがありました.また,20数年ぶりに参加した人の感想の伝言がありました.平和公園は,大きく変わった所と変わっていない所が混在しているようです.名古屋大学で行われた雑木林の多様性の観察会で,排気ガスなどで汚れているのでシャシャンボの実を食べてはいけないと言われたという話もでました.少しだけなら問題ないというのが自然観察会の見解でした.日本熊森協会の話も出ました.工事などで変わりつつある平和公園で,観察項目は少なかったですが,晩秋を楽しんだ観察会になりました.

ボクトウガの標本

観察項目:ヒメツルソバ,ムベの実,マテバシイのドングリ,スダジイのドングリ,ツブラジイのドングリ,灯火採集の昆虫標本,ナンキンハゼ,ノコンギク,ヨメナ,ゴミムシ,カシノナガキクイムシがコナラに入った穴,サルマメ,カクレミノ,シャシャンボ,ヒサカキ,ジョウビタキ,ボクトウガの成虫標本(概ね観察順)
文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子

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2009年11月の観察記録です。
2010-4-5 676

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