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2010年 > 3月度の観察記録
3月度の観察記録
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 快晴で気持ちのよい観察会びよりでした.平和公園入口の石柱近くのユキヤナギ(雪柳,バラ科)が,白い小さな花を咲かせ始めていました.集合場所の1本しかないモモ(桃,バラ科)もピンク色の花を咲かせ始めていました.新池の水面には,既にスイレン(睡蓮,スイレン科)の目立たない茶系色の芽がポツポツと出ていました.その隙間で1羽のカワウ(川鵜,カワウ科)と2羽のカイツブリ(鳰,カイツブリ科)がしきりに潜って餌を取っていました.カワウは浮き上がっても首まで水に浸かっていました.広い水面には,その他にバン(鷭,クイナ科)とヒドリガモ(緋鳥鴨,カモ科)が,それぞれ2羽ずついました.シロハラ(白腹,ツグミ科)とジョウビタキ(尉鶲,ツグミ科)も新池土手の樹木にいました.清風荘跡地では,日曜日にも関わらず原っぱ造成の工事をしていました.参加者は,出発時に子供5名を含めて53名と大勢でした.その後も,途中で数名増えたようでした.上海万博で上映するビデオを作るために名古屋市が委託した撮影クルーも参加していました.

平和公園入口のユキヤナギ モモの花

 集合場所の公園では,予告通りテーブルとベンチがすっかり撤去されていました.清風荘跡地の原っぱの道路側には新たにベンチが設置されており,本当にここのテーブルなどの撤去が必要であったのか疑問です.テーブルがなくなったので,従来からあった大きな黒い石の周辺で参加者が集まりました.
 まず,先月の報告を見ました.ハクセキレイ(白鶺鴒,セキレイ科)やアカガエル(赤蛙,アカガエル科)が話題になりました.アカガエルは,1月に冬眠から目覚めて水の周りにいるそうです.今年は,この2月の寒さで死ぬか産卵をやめて栄養分として卵を吸収してしまったカエルもいたはずという話がありました.アカガエルは,3月初旬に卵からオタマジャクシになり,今の時期は既にヒキガエル(蟾蜍,ヒキガエル科)の卵もオタマジャクシになっているそうです.
 今回の観察会は,東山新池北広場環境調査に合流ということで,地形・地質,土壌・土質および哺乳類の調査を専門家を招いて行うことになりました.
 10時開始ということで,最初に村松憲一さんから,地質の解説がありました.名古屋市東部の地質は,新生代新第三紀の東海層群と第四紀の八事・唐山層からなっており,平和公園は,猪高部層が大半で,東山層と八事層が一部露出しているという説明が資料を使ってありました.また,従来言われていた東海湖は,そんなに大きくなかったという説が最近は有力ということでした.清風荘跡地の北斜面の茶色に見える地層は,鉄分を多く含んだ土という説明もありました.説明の後で,湖底が隆起してできた平和公園の地表面に出ているチャート(chert)は火打石として使えるのかという質問が出ました.ハンマーで叩けば火花がでることは確かという回答でした.火打石は,硬度7以上の石であれば何でも使え,白色の石英質のものが一般的なようです.チャートや黒曜石も一部で用いられたようです.神事には瑪瑙を火打石として用いることも多いようです.東海丘陵要素である植物18種に関しても,ある参加者から説明がありました.

【外部リンク】火打石のはなし(火打石研究会)

土質の説明 清風荘跡地の斜面

 10時25分から,野呂達哉さんによってこの地域の哺乳類について説明を受けました.環境省,愛知県および名古屋市が独自にレッドデータブックを作っていますが,環境省のレッドデータブックの中には,愛知県内の哺乳類は入っていないという説明が資料を使ってありました.名古屋市に関しては,絶滅危惧種が増えており,2010年版ではコウベモグラ(神戸土竜,モグラ科)も入ったそうです.タヌキ(狸,ネコ目イヌ科)などの移動が容易な動物は除き,道路などによる分断に哺乳類は弱いそうです.今回は,あらかじめ仕掛けているトラップ,フィールドサイン(糞や足跡など)および自動カメラで調査をするということでした.自動カメラで撮られた,新池に生息しているアライグマ(浣熊,アライグマ科)の写真が資料に載っていました.このアライグマは守山の方から来たのではないかと推測されているそうです.外来種のアライグマは,在来種のカエル,カメ,サンショウウオなどを食べてしまうので,生物多様性の観点から,駆除した方がよいという説明でした.
 最後に,10時40分からNEXCO中日本の大岩さんによって,地域性樹木の育成に適しているかを確認する土壌調査のために,土質硬度計を使った硬度測定とpH(水素イオン濃度指数)測定をするという説明がありました. 

 集合場所を出発して,清風荘跡地に道路側の土手から入りました.土手の大きな木のサクラ(桜,バラ科)の花はまだ咲いていませんでしたが,その根際から出ていた2本の1m丈程度の若木だけは花が満開でした.

清風荘土手のサクラ

 清風荘跡地の北斜面で鉄分の多い地層をまず観察しました.その部分の土を手にとってみると,他の地層の土に比べて,結構硬いことがわかりました.この地層の少し上の斜面で,スコップを使って深さ50cmの穴を掘りました.チャート(chert)が混じったシルト分(silt fraction,地質学では1/16〜1/256mm,土壌学では0.02〜0.002mm粒径の土で,簡単に言えば砂と粘土の中間)の多い土で,チャートにスコップがあたって掘りにくい状況でした.何故50cm掘るのかという問いに対して,コナラ(木楢,ブナ科)やタンポポ(蒲公英,キク科)などのような直根性の植物を除いて,スギ(杉,スギ科)やヒノキ(桧,ヒノキ科)などの通常の植物は40cmくらいしか根を伸ばして吸水できないということで,この深さが決まっているという回答でした.中山式土質硬度計を使って,まず深さ30cmの土質硬度を調べるために,穴の側面に横向きに土質硬度計を慣入して測定しました.測定結果は,11mm,18mm,17.5mm,16.5mmでした.土質硬度計はバネを使っていて,土質の慣入反力に従って目盛りが動くので,大きな値ほど硬い土質になります.次に,穴の底に垂直に硬度計を慣入して計測しました.最初の測定結果は8mmで,これは掘り返した土が残っていたためでした.掘り返した土を穴から取り去って測定したところ,12mm,11mm,18mmでした.10mmから27mm程度が,樹木の土壌として適しているということで,この斜面の土質硬度は問題ないようでした.ペットボトルの水を穴に入れて,透水性と保水性を見ました.水は底にたまったままで,すぐに浸透しませんでした.普通は20分くらいたってから様子を見るのだそうですが,今回は時間がなかったので次の地点に移動しました.

鉄分を多く含んだ土 土質硬度計 浸透性確認のために水を入れる

 斜面を登って,独特の香りを出しているジンチョウゲ(沈丁花,ジンチョウゲ科)の花を見てから,その近くで,もう1つの穴を掘りました.植物の根が35cm程度の深さまで網の目のようにありました.男の子が一生懸命,土質硬度計を使って硬度を測ってくれました.深さ30cmで,土質硬度は10mm,8mm,15mmmでした.根があるもっと浅いところでは18mmでした.穴の底の土質硬度は,6.5mm,5.5mm,7mmでした.

チンチョウゲ

 次に,土壌のpHを測るために,土をコップの中に少し入れて,ペットボトルの水とまぜて懸濁液を作りました.ロール形式になっているツー・バンドpH試験紙(pH3.5〜6.8用)を5cm程切取って,この懸濁液に入れて,変化した試験紙の色を,ロールの横に印刷された指標と比べてpHを確認しました.中学校などの化学実験でpHを測定するときは,アルカリ性と酸性で異なった単色の試験紙(リトマス試験紙)を使いますが,精度がよくないので,今回は2つの試薬をツー・バンドで両側に塗ったこの試験紙を使ったようでした.色が2色あるので,どちらの色の変化を優先するかで判定に多少戸惑いがありました.懸濁液のpHは,2回測って4.8と5.4でした.なお,斜面下の湧き水のpHは6.3でした.pHが4.5から8.0までくらいが,樹木の土壌として適しているということでした.この周辺の土壌は,バックホーなどで,掘り返して空気層を入れてやるなどの基盤整備をすれば,十分樹木の育成のためには良いという結論になりました.
 pHを「ペーハー(ドイツ語読み)」と読むか「ピーエイチ(英語読み)」と読むかによって学校教育を受けた年齢が分かるという話題がでました.1957年のJISで,pHは「ピーエイチ」とされ,その後の法律も全てこれで統一されており,学校教育でもある時から変わったようです.私は,高校までは「ペーハー」で,大学では「ピーエイチ」という教育を受けました.

水にとかした土の酸性度測定 ツー・バンドpH試験紙による酸性度測定

 次に,シャーマントラップ(Sharman Trap)の説明が実物を見せながらありました.アルミでできた折り畳み式の直方体のトラップでした.1個4000円くらいだそうです.トラップの中に,綿とピーナッツバターが入れてありました.油揚げを入れる研究者もいるそうです.綿は,トラップにかかった動物を寒さで死なせないためという説明がありました.このトラップを設置するには県の許可が必要だそうです.次に,モグラ捕りのトラップとして,バネを使わない小西式トラップとネズミ捕りのようにバネを使って殺して捕まえる2種のモグラ用トラップの説明がありました.バネを使うものは首吊り式あるいはギロチン式とでもいうものでした.どのトラップもモグラ穴に埋めて仕掛けるものでした.

シャーマントラップ 小西式トラップ(モグラ捕獲器)

 あらかじめ周辺に設置しておいたシャーマントラップを観察しました.2つのシャーマントラップにアカネズミ(赤鼠,ネズミ科)がかかっていました.外から臭いを嗅いで,獣くさいという説明がありました.単に,ピーナッツバターの臭いしかしないという参加者もいました.ヒミズ(日不見,モグラ科)がかかった場合は,非常に変わった臭いだそうです.
 最初に,シャーマントラップからビニール袋に移したアカネズミは,雌で多分生後2年目のものだそうでした.子供たちが触ろうとしましたが,ビニール袋越しでも噛まれる可能性があるので,手を出さないように注意がありました.野呂さんが軍手をはめてつかんで茶封筒に入れ,薄型の体重計で測定したところ,48.6gでした.ネズミの雌雄判定に関して,雄は尿道口と肛門の間の距離が大きく,ここに睾丸をしまうので分かるという説明がありました.アカネズミは,ドングリ,昆虫およびバッタなどを食べており,このアカネズミをヘビ,フクロウおよびイタチなどが食べるので,生物多様性のためには,このようなアカネズミがまだ生息しているのは大変よいということでした.
 もう1つのシャーマントラップにかかっていたアカネズミはずっと小さく,体重は27.6gで,多分,今年生まれた雄だという説明がありました.ビニール袋越しに見て,大変かわいらしい目と顔をしているという感想が参加者からでました.アカネズミは,成熟しても地域によって体重が異なるそうです.2匹とも捕獲した場所で逃がしてやることにしたときに,子供たちは競って見にいきました.逃げる様子を写真に撮ろうとしても,アカネズミはジャンプをして,素早く逃げてシダの下に隠れてしまい,逃げる様子の写真は誰も撮れませんでした.
 モグラのためのトラップも仕掛けてありましたが,今回は何もかかってはいませんでした.1つのモグラ用のトラップを掘り出して,モグラ穴だけを観察しました.

アカネズミ 体重測定中

 その後,自動カメラの説明がありました.動物の体温に反応するものでした.よく猫が撮影されるそうです.沖縄でも同様で,自動カメラによく撮られる野猫がヤンバルクイナ(山原水鶏,クイナ科)などの貴重種を餌にしているので,駆除しようとすると反対運動がおきて,駆除できないという説明がありました.公園やキャンパスで,野猫に餌をやりに来る人がどこにでもおり,この猫派の人達にとって,貴重種のヤンバルクイナを守るためにマングース(マングース科)を駆除するのはよいですが,かわいい野猫を駆除するのはだめということのようです.この説明の後,樹木に実際に取り付けられた自動カメラを見に行きました.カメラの上に注意書きも設置してありました.

自動カメラ

 調査を終えて清風荘跡地を出るときに,柵をまたぐのに苦労した人達が多くいました.
 感想会は,道路を渡った団地前のメタセコイア(スギ科,和名:曙杉)の植わった三角公園で行いました.時間が遅くなってしまい,半分くらいの参加者しかここには来ませんでした.最初に,大岩さんと村松さんから,今回のまとめがありました.今回は参加者の感想発表は省略されました.いつものようには歩きませんでしたが,初春の気持ちのよい観察会になりました.

観察項目:モモ,サクラ,鉄分を含んだ地層,土質硬度計,ツー・バンドpH試験紙,清風荘跡地の土質硬度とpH,湧水のpH,ジンチョウゲ,シャーマントラップ,小西式モグラ捕獲器,バネ式モグラ捕獲器,自動カメラ,アカネズミ2匹,モグラ穴

文・写真:伊藤義人 監修:滝川正子

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2010-4-11 536

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